LEWD(22)

 血すら滲みそうな傷口を唾液に塗した指で優しくなぞると、彼は全身を小刻みに震わせて喘いだ。尻肉がヒクヒクと息衝いている。
 私は事務机の上のカッターを抜くと、それを彼の太股に突き付けた。
「な、……ッに……!」
 瞠目した加賀見が全身の毛穴を窄めながら躰を強張らせた。彼の言葉に応えずに銀色の刃を肌の上にそっと滑らせる。ぷつりぷつりと途切れ途切れの血の玉が浮かび上がった。怯える加賀見の喉からは悲鳴とも溜息ともつかない音が漏れ、それは皮膚を刃でなぞられていることに感じ入ってるかのようでもあった。
「暴れたら刺すぞ」
 私はゆっくりと彼を拘束する腕を解いた。私が戯れ言でこんなことをしているわけではないということが彼に伝わると良いのだが。私は別に彼の腿を刺すことを厭わないし、暴れられたら困るというよりもこうして彼を脅しながら陵辱することに興奮を覚えた。恐らくそれは彼を実際に刺しても収まることのない興奮だろう。
「大人しくしてろよ」
 告げる私の声も震えていた。何しろ事務所は工場と違って二階に音が漏れやすいし、二階には社長の細君がいる。扉を一枚隔てれば工場だし、工場には何人もの工員が働いているのだ。いつ、何らかの用事があって人が入ってくるか判らない。ましてや騒ぎでもすれば……だ。
「……ッだろ……、――冗、談……」
 下肢を一度味わった性欲に戦慄かせながらも加賀見は喉を震わせて呟いた。聞こえるか聞こえないか、という程度の弱々しい声音で。私に叱られることを怖がっているのだ。
「冗談?」
 私が聞き返すと加賀見は小さく息を飲んで首を竦めた。加賀見に怯える田上さん以上に過敏な反応で。
「じゃあこれも、冗談か?」
 そう尋ねるなりカッターを持っていない方の手を彼の肉棒に伸ばす。一度竦んだ躰が今度は小さく仰け反った。完全に勃起した彼のものは亀頭を剥き出しにして敏感な部分を晒している。幹を握って、皮ごと扱いた。
「ヒ、ぅ……ッ……う、……ン……っ」
 顎を突き上げて一度声を漏らしたものの、加賀見は直ぐに唇を噛んで喘ぎを堪えた。他の人間に悟られては不味いというよりも、単純に屈辱ゆえだろう。
 彼が声を出さないのを良いことに、私は彼の男根をぬちゅぬちゅと容赦なく扱いた。加賀見も腰を揺らめかせて――本人は身を捩って拒んでいるつもりかも知れないが――応えた。加賀見の上体を事務机の上に突っ伏させて、その背後から尻に顔を寄せる。カッターで薄く傷を付けた腿に舌を這わせると加賀見は大きく腰を跳ね上げた。
「は・ッぁ……! 梶谷さ……っン……、も、……止せ……ッ・やめてくれ……!」
 手の中で肉棒がどくどくと激しく脈打っている。イきそうなのに違いない。私はその根元をきつく握った。
「ア、…………ひゥ、……ッん……! や、……や……ァ……!」
 握った手を振り解こうとするかのように加賀見が腰を振る。その腰を抑え付けて双丘に鼻先を押し付けた。濃い体臭が鼻を突く。私は興奮して、貪るように尻肉を掻き分けながら熟れた肉を舐めた。
「や……! っア、……梶谷さん……っ、止めろ、誰か来たら……! や、ァ・あ……やァ・止め……ッア、あっ……!」
 窄めた舌をアナルにねじ込むと、塞がりきらない傷から血の味が滲み出てきた。それを舐め啜るたびに加賀見の声に甘さが重なる。ひくっ、ひくっと震えて応える肉襞は私の舌に吸い付いて淫らに蠢き始めていた。とても異物の侵入を拒もうとしているようには思えない。直ぐにとろとろに蕩けて尻を突き出してくる。
 時折掌を前後に動かしてやると加賀見も吉村のように嬉しそうな鳴き声を漏らすようになった。
「人が来なきゃやって良いのか?」
 息を継ぐために私が顔を上げると無意識に加賀見は尻を振る。机の上に拳を握って自分の口にあてていた。頬はすっかり上気して、以外と艶っぽい。
「え、どうなんだ」
 唾液を滴らせた尻を軽く打つ。加賀見は恍惚の表情で肩を竦ませた。とんだ変態に育っている。彼を初めて犯してから日も浅いというのに、私の方が戸惑うほどだ。
「あんたがして欲しいというなら、してやらないでもないよ……若社長」
 細い腰をくねらせて、しかし欲しいと言うことは出来ないようだ。ぱんぱんに膨れ上がった陰嚢が中の精子を吐き出したがって充血している。加賀見は相当息苦しそうだった。根本を握ったまま、尿道口に爪を立てた。
「ぃ……っ、ヒ……んっ! ア、ッあァ、ア……」
 小さな孔を拡げてやるように爪を揺らす。加賀見は拳をあてた唇を丸く開いて小刻みに痙攣している。尻をぷるぷる震わせて、絶頂を押し止められているのだ。
「……イ・か、……っ梶谷、さん……ッ! ……いか、……イかせて……ッくれよ……!」
 自分で吐いた言葉にも快感を押さえきれないようだ。きつく握っているつもりでも、とろりと白濁が滴ってきた。それを指に掬ってまた亀頭に塗りつける。加賀見は高熱に浮かされたように短い呼吸を往復させていた。
「かせて……っ、イかせてくれ……、変、……変になる、頭が……っ・梶谷さん、頼むからもう許してくれよ、ぅ……っイク……イク、……ッイかせてくれよ……!」
 加賀見は恥も外聞もなく尻を強請るように振り始めた。上体まで大きく揺らしているのは、机上に乳首を擦り付けているのか。
 私はカッターを脇に置くと書類を束ねる綴り紐を手に取った。少しでも快感を感じ取ろうとしている加賀見には私の所作は目に入っていないようだ。