LEWD(21)

 事務所は殆ど無音で、私がキーボードを叩く音と田上さんが伝票を繰る音、そして工場から響いてくる低い機械音だけが響いていた。時折加賀見がくしゃみをするだけでも田上さんはびくりと肩を震わせる。
「加賀見さん、風邪ですか」
 キーボードから指を離して湯飲みに手を伸ばす。すっかり冷めた緑茶だったが、私には丁度良い。田上さんが私と加賀見の様子に固唾を飲んでいる。息を詰めて怯えているのが全身から滲み出てくるようだ。
「………、」
 加賀見は何も答えずに私を睨み付けただけだった。彼が風邪を引いてしまったのなら私に責任がある。しかしそれを詫びることも許してはもらえないようだ。私は黙って湯飲みを置き、目の前のモニタに視線を戻した。

 三日前まで田上さんは休暇を取っていた。
 彼女が此処に勤めるようになって初めての休暇願だったらしい。前々日から彼女は本当に休んで良いのかどうか悩んでいるようで、私が気にしなくて良いのにと言ってもまだ不安そうな表情で前日の挨拶をした。
 夫婦で旅行に行ったらしかったが実際のところは彼女の日々の心労を癒すためだったんではないだろうか。
 若社長と二人きりになった事務所でも私は特に気にならなかった。お茶を自分で淹れなければならないくらいで、本社ではやっていたことだし、たかだか二日や三日事務員さんがいなくなったところで困るほど忙しい事務所じゃない。
 しかし加賀見青年はそうではないようだった。田上さんがいない日は朝から落ち着かない様子で、不機嫌を絵に描いたような表情で押し黙っていた。
 田上さんがいないのに自分まで事務所を空けてしまっては私一人になってしまうし、かと言って私と二人きりで部屋に閉じこめられることが耐え難いようだった。
 無理もない。私は彼を犯した晩に躰の洗浄と消毒をしたことを伝え忘れていて、田上さんの休暇を迎えてようやく伝えたのだ。それを聞かされた彼は怒りに打ち震えたような表情で、私の横にあったゴミ箱を蹴りつけて踵を返してしまった。
 此方としては彼が消毒の有無を気にしたら悪いと思って親切で伝えたことなのに、あまりにも態度が悪いので咎めた。傷をつけたのは私だし、もし私の消毒が至らず膿んででもいたら病院に連れていく義務がある。尋ねると、加賀見青年は拳を振り回して彼を引き留めた私に襲いかかってきた。
 躰の傷のことも、彼が私に犯されたことも――それでイってしまったことも、言ってはならないことのようだ。そのことに今後触れるようなことがあったら「ぶっ殺す」とも。
 私は加賀見青年の拳を掴むと後ろ手に捻りあげた。
 そんなことでは私は非常に都合が悪い。吉村には会えず、lewdの正体も判らない。その上こんな郊外では私の目覚めてしまった性欲を満たしてくれる男など他にいないだろう。彼が望むと望まざるとではない。加賀見には肉壺になって貰わなくてはならないのだ。私を満足させるためだけの淫売に。
 ねじ伏せた躰の双丘を掴むと彼は顔を歪めた。どうやら傷はまだ良くなっていないらしい。好都合だ。何せ彼が焼け付くような痛みで性感に達してしまうことは前回で判っている。傷の塞がりきらない蕾に再び熱い杭を打ち込めば彼も悦んでくれるだろう。
 厚手のカーゴパンツの上から指を突き立てた。腕を背後に回された加賀見は身を捩ることも出来ずに躰を二つに折って呻く。額に脂汗が浮かんでいた。相当痛むのだろう。私は彼のパンツを引き下ろした。案の定、肉棒は充血して彼の腹を打っていた。