LEWD(56)

 加賀見の股間がねっとりと濡れている。
 じわりと滲み出てきたザーメンが染みを広げていく。勢いよく吐精したのだろう、泡さえ浮かんでいるようだ。――私が彼を揶揄したように。
「…………ッ、く……ゥ……!」
 加賀見の表情が屈辱に塗れ、今にも泣き出しそうに張り詰めている。しかし男に詰られて泣き出せば、触れられてもいないペニスを弾けさせるよりも精神的な屈辱になるだろう。
「イったな」
 私は加賀見の無理矢理開いた唇に親指を突き入れ、閉じさせないように上顎を押し上げながら上体を屈めて股間を覗き込んだ。噎せ返るような匂いが鼻を突く。ジーンズと下着に覆われた中でヒクヒクと息衝いている様さえ見えるようだ。
「性感帯を触らなくてもイケるほど溜まっていたのか、……それとも触れられないことで感じたのか?」
 自室に飛び込んできた時点で彼の性感はひどく昂っていたに違いない。それを言葉で貶め、壁に打ち付けて痛め付けることで被虐願望が満たされてしまったのだろう。力なく開かれた唇から弾む息が熱い。
「さぁ、着けている物を脱げ。――次は私の番だ」
 スーツの中はすっかり勃起していた。若い精の匂いを嗅いで、とても正気でいられるわけが無い。
「…………ン、……ぁ……」
 親指を乗せた舌が震えた。視線を上げると、物言いたげに私を見下ろしている。
「何だ?」
 唾液に濡れた指を引き抜くと、それが抜けるや否や加賀見は払い除けるように腕を振って私を拒んだ。 
「ふ、……ザけんな……ッ! とっとと出てけよ、ぶっ殺すぞ……手前ェのやってることは犯罪だ、俺が訴えればお前なんか……ただのレイプ犯じゃねェかよ――・偉そうにしてんじゃねェ屑野郎!」
 加賀見は布団を手繰り寄せると己の股間を隠しながら噛み付くように怒鳴った。
 彼が怒鳴っていることくらいは下の事務所まで聞こえているかも知れない。内容まで聞き取れるかどうかは定かではないが、恐らく今頃田上さんはデスクで竦み上がっているだろう。
「合意の上ならレイプにはならない」
 私は濡れた指を舌の腹で丁寧に舐め取って、答えた。
 確かに然るべき場所に出れば私は犯罪者になるかも知れない。若社長がごねる所為でいつも私は無理矢理のように彼を抱いた。しかし
「……それに、加賀見さんが訴えられるとは思えない」
 言葉を聞いた加賀見は表情を歪めて再び口を開く。出来ない筈はないと言いたいのだろうが、私はその言葉を遮って続けた。
「――刑事に言うのか? 自分がどんな風に犯されたのかを」
 一日の仕事を終えた工場の床で、鉄の棒を突き刺されたことや、自ら腰を振ったことを。二人きりの事務所で絶頂寸前の肉棒を縛り上げられて放置されたことを。夕暮れの公園で小便を垂れ流しながら射精したことを。――彼が言える筈も無い。
「詳しく証言すればするほど、刑事も裁判官もおかしく思うだろうよ……だって、アンタも欲しくてやってたんだからな」
 スーツのフロントジッパーを開きながら、笑い声を漏らした。加賀見が唇を開いたまま戦慄かせているが、それ以上は何も継げないようだ。その唇に傘を広げた亀頭を近付ける。何度でも勃起する私の自慢のマラだ、硬度も充分保っている。それどころか酷使をすればするほど赤黒くてかりが出てきて隠微な様に磨きが掛かったようですらある。
「ッ、誰がこんなもん欲しくて……」
 犬が牽制するような唸り声を震わせて、加賀見は奥歯を食い縛った。その震える頬を肉棒で叩く。ぞくりと震えたのが私の背筋なのか、それとも加賀見だろうか。
「噛み付くんじゃないよ、――そんなことをしたら君もただではおかない」
 彼にそんなことをする度胸が無いことは判っているが、私は片足をベッドに上げ、上掛けに隠された彼の股間を踏み潰せるように宛がった。崩れそうなバランスを支える為に加賀見の髪を再び掴む。
「さぁ、若社長――アンタはこのチンポが大好きなんだろう、……違うか?」
 込み上げて来る笑い声を隠すこともせずに、私は加賀見を見下ろした。