LEWD(55)

「どうした、早く脱がないと下着も服も汚れてしまうぞ。――お前の汚らしい、我慢汁でな」
 加賀見の股間にはジーンズの色を濃くさせるほどの先走りが滲み出てきていた。強くぶつけるのではない、押し付けるだけのように壁に頭を打ち付けられているだけで、腰さえ揺らめかせているようだ。
「匂ってきたな、お前のいやらしい種汁の臭いが」
 私は加賀見の髪を掴んだ手に一際強く力を篭めて壁から引き離し、ぐいと引き寄せた。表情を覗き込むように、顔を寄せる。
「痛ェ、……ッ・痛ェ、よ……梶、谷さん……」
 朦朧としたような、焦点の合わない眸が私を仰いだ。唇はだらしなく開かれて、唾液が下唇を艶やかに濡らしていた。悪態を吐くことさえ気怠い、といった風に見える。そうまでしてやらなければ彼は素直になれないのだろう。
「何処が痛いんだ、言ってみろ」
 掴んだ髪を容赦なく引き上げると、痛みを緩和させようと加賀見がベッドから腰を浮かせた。その内腿が痙攣するように震えている。
「ッ・チンコ……――チンコ、痛ぇよ……ッ梶谷、……っさん……」
 加賀見の唇から熱い息が漏れた。私の手を拒もうと立てられた爪はすっかり引っ込められて、まるで縋り付いているかのようだ。私が彼の頭を痛めることを止めると、尻を振る仕草は一層顕著になったように見える。疼きを自分でも止められないのだろう。それも当然だ。私が彼を最後に犯してから、もう暫く経つ。
「それはそうだろうな、早くそんな服を脱いで楽になれば良い」
 ジーンズの窮屈なジッパーに抑えつけられて震えている股間を視線で撫でて私は笑った。加賀見が息を飲む。下唇に滴る唾液を舐め取って、口唇をきつく結んだ。
「早く脱げ、……それともその中でイきたいのか?」
 加賀見に尋ねながら、私はそれも彼の望むことなのかも知れないと思った。虐げられる悦びを知ってしまった彼の。
「ジーンズの中で勢い良く吹き上げれば、滲み出てきたザーメンが泡立ってさぞやいやらしいだろうな。……私はそれでも構わないよ、どうだ、若社長」
 想像する私の股間がぐんと首を擡げるのを感じた。加賀見も想像をしたのだろう、部屋に立ち昇る臭いは一層明確になり、吐き出される息の感覚が短く、浅くなった。紅潮した顔は髪を掴まれながら伏せようと必死になり、ただ目蓋だけを落とした。
「私が抱いてやらない間、アンタはこの部屋で一人で処理していたんだな? ――尻は弄っているのか?」
 加賀見の髪が私の手の中でプツリプツリと切れる音がした。一度手を離し、髪の絡みついたままの手を今度は加賀見の顎にあてる。私の顔にその表情を向けたまま質問を繰り返すと、加賀見は黙って唇を噛んだ。
「自分の手で尻穴を穿ってイってるのか、と訊いてるんだ」
 答えろ、と声を張り上げると加賀見の肩が震えた。恐れを成しているのか感じ入っているのか判らない。
「どうせお前は男に尻を掘られてよがり狂う変態だ、ペニスを扱いただけじゃ満足出来ないだろう、違うか?」
 告げると、知らずに笑いが込み上げてきた。加賀見を変態だと詰る私こそ、変態ではないのか。吉村を無理矢理のように犯し、加賀見を犯し、しかもこんな風に彼を追い詰めることでこんなに欲情している。吉村の躰を何度も抱いたのはつい昨夜のことなのに、まだ疲れを知らない私の性欲こそ、どうかしているのかも知れない。
「……ッ、せぇ……な、――うるせェな……ッ・誰の所為、だ……」
 加賀見はきつく眉を寄せ、咽喉の筋をびくびくと震わせながら声を絞り出した。なるほど全く、私の責任だ。しかし変態性向は伝染病ではない。彼らが私の所為で開眼させられたのだとしても、それを求めるようになればそれはもう私だけの所為ではない。
「やっぱり一人で尻を穿っているんだな」
 さらりと聞き流した私の言葉に、加賀見が弾かれたように視線を上げる。加賀見が屈辱を覚えながら自分で尻を弄っている場面を想像すると、唇に笑みが浮かんだ。
「――・ッ……!」
 息を詰めた加賀見が身を捩って私の手から逃れようとした。顎を掴んだ指に力を篭め動きを封じる。力を入れすぎたのか、加賀見は頬の外側から歯を広かれ口を開いて声にならない悲鳴を上げた。背筋が仰け反り、断続的に震える。まさか、達したのだろうか。