LEWD(58)

 イマラチオを強いていた私が腕の力を緩めても、加賀見はえづくほど咽喉の奥深くに肉棒を啜り取ることを止めようとしなかった。私の薄くなった叢に鼻先を擦り寄せ、口蓋垂に亀頭を押し付けて尚、食道に直接ザーメンを欲しがっているように嚥下する仕草を繰り返す。
 私は加賀見に勘付かれないように徐々に掌の力を抜き、やがて彼の頭から手を離した。
 口での呼吸を遮られた加賀見は鼻腔から荒い息を吐き、時折咽喉に詰まった唾液や私のねっとりとした先走りに背中を波打たせる。眉間に寄った悲痛なまでの深い皺はまだ私に無理矢理犯されているような気分を味わっている証だろう。
「そんなに美味いか、――私のチンポが」
 顔の向きを変えながら口いっぱいに陰茎を頬張る加賀見の顔は、上からでは表情まで窺い見ることは出来なかったが私が声を掛けると空ろな眸がゆっくりと仰がれた。
「旨いか、と聞いてるんだ……もっと舌の腹で味わえ。咥えているだけではイかないよ」
 ベッドの上で絶え間なく揺らめき、貪欲に扱かれた自慰の手は私に気付かれていると知っていても休めようとしなかった。自我を失ったような表情を伏せて、加賀見は再び顔を前後させ始めた。下肢から立ち昇ってくる熱は、そして噎せ返るような匂いはもはや私のものか彼のものか判らない。
「ン……ぅ・む、ん……ンんぅ――……っ」
 加賀見の傷みきった金茶の髪が私の腰骨を震えながら撫でる。頬を窄ませて内側の粘膜を臭い性器に吸い付かせながら、加賀見は煙草でざらついた舌肉を私の怒張の裏筋に擦り付け始めた。
 吉村の尻穴を何度も穿った後、私はきちんとこの愛棒を洗っただろうか、と考えて――笑みが零れた。
 今加賀見が私のカリ首から捲くった皮の下に舐め取っている、美味いと思って貪りついている味は私のものではないかも知れない。吉村の肉襞の味なのかも知れないのだ。しかし吉村の味とていつも同じではないかも知れない。吉村が他所の男と寝るたび彼の味も変わり、それを犯す私の味も変わるのかも知れない。
「ん、ン……んン・ッ――ン、……くゥ・っ、んッ!」
 前立腺を擽るなどという真似はしない、舐めろと言われたらただ舌腹を擦り付けるだけの不器用な口淫をしていた加賀見が咽喉を引き攣らせながら鼻声を高く弾ませ始めた。きゅうきゅうと咥内がよく締まる。悩ましげな表情を捩らせながら、目蓋も閉じてすっかり酔いしれていた。彼の絶頂が近いのだろう。
「ンぁ・か、――梶谷……ッ、さ……!」
 咽喉を逸らした加賀見の上顎を弾いて私の男根が天井を向いて飛び出た。
「イ、――……っイク……!」
 加賀見の唾液と私自身の淫液で濡れそぼった叢に顔を伏せながら、加賀見が珍しく甘い声を出し強請るように叫んだ。鼻先を私の屹立に擦り付ける。犬のように舌を口外に垂らしお座成りにフェラチオを続けながら荒い息を弾ませ、彼は果てた。

 唇を開くだけで糸を引くほど濃いザーメンを加賀見の咽喉で処理させた後、私が事務所に戻って田上さんにアリバイを作るように薬と水を貰って加賀見の部屋に戻ると、加賀見は乱れたベッドに体を横たえて眠っていた。
 掌には自身の精液を握ったまま、まるで力尽きたようにしている。
 寝顔はただの青年だ。口さえきかなければいきがっている様子も伺えない。私は彼の掌だけをティッシュで拭ってやると、コップに注いだ水を部屋の隅に置かれたテーブルに置いた。
「…………」
 真新しいノートパソコンが鎮座している。
 こんなものを加賀見が持っていることは知らなかったしそれらしい素振りもなかった。勿論彼が持っていたところで私の仕事を手伝ってくれるとは思わなかったが、意外だった。しかし以前私のメールを盗み見たことを思えば、それなりに使ったことはあったのだろうと想像は出来たのだが。
 私は加賀見の寝息を聞きながら机の前の椅子に腰を下ろして本体の脇に付いた電源を入れた。稼動音の小さい、機能は良さそうなパソコンだ。彼の給料で買ったものなのか、それとも社長にねだったものなのかは知らない。煙草もゴルフもやらない社長が最近は酒の量も減らしたというのに、息子はいい気なものだ。
 起動の早いパソコンにインストールされているソフトは殆どなかった。まだ購入して日が浅いのか、したいことが限られている所為なのか。私はメーラーを立ち上げる前にインターネットを閲覧するブラウザを立ち上げた。自分のしていることに罪悪感など感じる筈もなかった。彼が私にしたことと同じことだ。彼が今起き出して私を咎めたところで何の問題もない。またその口を塞ぐだけだ。
 ブックマークを開く。国内外のアーティストの公式サイトの名前が姿を見せた。彼が音楽に興味があるなど知らなかったが、今日日、これくらいは普通なのかも知れない。
 ファッション関係の公式サイト。テレビドラマの公式サイト。漫画の批評サイトなんてものも顔を覗かせていた。
 最後に、掲示板と書かれたフォルダがある。
 見つけた端から気侭に登録しているだけのような雑然としたブックマークの中にフォルダはそれ一つだけだった。これだけはきちんと整理して活用しているということか。私は躊躇わずにそのフォルダの中身を開き、英語で書かれた一番上のタイトルをクリックした。
「――……、」
 そこに現れた『掲示板』は、ゲイの出会いをサポートする内容のホームページだった。