LEWD(59)

 聞き流したつもりで忘れていた多田の言葉が脳裏を過ぎった。
 もしかしたら、こういった内容の掲示板に私のメールアドレスを――私をからかうつもりで――書き込んだ人間がいたとしたら、lewdはその書き込みにメールをして来たのかも知れない。
 だからと言ってlewdの素性が知れるわけでもないし、書き込んだ人間も判らない。判ったところで、苦情を言うわけにもいかない――今の私の有り様では。それによって私が受けた被害などただの一つも無いのだ。あれから失ったものなど本社から去ったことくらいだが、それにlewdは関係が無いし、寧ろ吉村の躰や加賀見、そしてlewdの存在など、得たものの方が多いような気さえする。
 自分にこんな性癖があったことなど知らずに今まで来たが、束の間のこととは言え、彼らを辱め淫らに汚していることは今まで感じたことの無い充足感を得た気がしているのだ。
 私は投稿者の任意で表示されたプロフィールや写真、メールアドレスとメッセージを無為に流し見ながら画面をスクロールした。
 プロフィールには年齢、体重、身長に並んで性器のサイズが自慢げに書かれていた。勿論メールアドレスと求めるプレイ、簡単なメッセージだけを記入しているものも、乱交の誘いもあった。
 加賀見は掲示板に投稿して相手を探しているのだろうか。それともこうして投稿された男達にメールを送って躰を好きにさせているのか。吉村が発展場に行くように、彼もまた相手を探しているのかも知れない。
 吉村が男を漁る姿は如何様にも想像できた。以前なら思い付くことも出来ずにいたが、本社であんな風に痴態を見せられた後ならば吉村が否定したとしても私は疑ったかも知れない。
 しかし加賀見が他の男に行為を許していることは幾ら頭を捻っても想像できない。私のように、生意気な青年を組み強いて乱暴に犯したい趣向の男は幾らでもいるだろう。しかし加賀見がこういった場所に何を書き込むのか、或いは男達にメールをどんな風に打つのか、何よりも彼自身が男を求めている躰だと自覚しなくては出来ない行為だ。何よりもそれを認めようとしない加賀見がそんなことをしているとは思えない。こうしてブックマークにゲイサイトを集めていることだけでも驚きだと言うのに。
 私は背後で眠っている加賀見の肩を揺り起こして問い質したい衝動に駆られながら掲示板の一ページを見終え、ページを閉じようとした。
「……、……?」
 ブラウザの右端にポインタを合わせ、クリックしようとした瞬間にふと見覚えのある顔を見つけたような気がして私はその指を止めた。
 プロフィールにハンドルネーム、メッセージの脇に貼りつけられた写真に私は食いいるように目を凝らした。
 見覚えのある顔だ。しかもたった今、彼のことを思い出したばかりだ。一度しか逢ったことはなかったが、そう言えば社員名簿で顔くらいは見たことがあったかも知れない。まるで知らない人物ではないのだ。吉村によく名前を聞かされた、合コンでいつもうまいこと女の子を連れ出していると聞いていたが――
 思い切り掘られたい、とメッセージを添えて写真を貼りつけている人物は、多田だった。