LEWD(62)

 股間に傷が付くことはなかったが、とても赤ん坊のようにツルツルとは言えないような剃り痕だった。陰毛は太いから、きっと彼自身も棘のような感触で剃り残しには気付いているだろう。しかしそんなことに構ってはいられないのかも知れない。
『恥ずかしい……恥ずかしい、です……僕、』
 消え入るようなか細い声がスピーカーを震わせた。しかしそう言いながらもlewdは積極的に体位を変えた。一人での撮影会では誰も叱ってくれないのだから仕方がないだろうが。
 lewdはベッドの上にうつ伏せになり、下肢をカメラに突き出した。獣のような格好で尻を露にしている。
『御主人様に犯して頂く時に、恥ずかしくないように……、こっちの毛も……綺麗に、して……おきます』
 躰を捩って自分の恥部がファインダーから外れてないかを確認しながら、lewdは震える声を紡いだ。見えない背後に自分で刃を当てるのは怖いだろう。指先も先程よりずっと震えている。
 しかし、左右に開かれた足の間から見える勃起は少しも萎えていなかったし、見せ付けられた秘孔は断続的にヒクついて、雄の杭を欲しがっていた。
 私はカメラの位置がもっと近くに寄ることを期待しながら、lewdへの返信を考えていた。そして、今日はもう勃起することがないだろう己自身を起てる時はlewdのこの姿を思い浮かべるだろうと考えていた。
 もう暫く彼に画像を送ってやっていない気がする。工場に赴任してから撮影する機会が余りない。吉村を犯しながら撮影出来れば良かったのだが、とてもそんなことが出来る状況でもなかった。
 吉村はどうしただろう。
 時計の針は午後十時を回っている。まさか思い立ってすぐに専務と関係がもてるとも思えないが、吉村はことが済んでから私に連絡を寄越すような気もする。彼からの連絡が入るまで私は吉村の身を案じ続けなければならないのだろうか。それともそれが彼の計算なのかも知れない。
 ブラウン管の中のlewdが尻の縮れ毛を剃り落としながら短く声を弾ませた。剃刀を自身で当てながら、腰をくねらせて絶頂を向かえてしまったようだ。ベージュ色のベッドカバーが色濃く染まる。ねっとりとしたザーメンは幾度にも分けて大量に発射された。

 明朝、事務所に出勤すると珍しく加賀見が席についていた。いつも私より先に着いて事務所の掃除をしている田上さんは工場に降りているようだ。
 加賀見は自分のデスクで上体を突っ伏して眠っている。一体何かあったのだろうかと想像を巡らせて見るが、ただ一つの可能性しか思い当たらない。それは私にも身に覚えがあるからか。
「おはようございます」
 席に鞄を下ろし、スーツのジャケットを脱ぎながら声を掛けるが加賀見はびくともしない。一体何時からここで眠っているのだろうか。私が昨夜事務所を出たのが十時半だ。加賀見はその物音を聞きつけて階下に降りて来たのだろうか。一晩中こんなところで眠っていたのか。
 加賀見がいつも変形させてしまうゴミ箱を覗くとそこはもう田上さんの掃除によって空になっていた。或いは私の想像が的外れなものであったならゴミ箱は昨日から空だったのだが。
「加賀見さん、朝です」
 起きて下さい、と肩に手を掛けると加賀見はくぐもった声を発して寝惚けながら、私の腕を振り払った。
「起きて下さい」
 振り払われた腕をもう一度掛けると、加賀見は苛立たしげに表情を歪めていきなり怒鳴り、躰ごと捩った。寝返りでも打つつもりだったのかも知れないが、此処はベッドの中ではなくデスクチェアーの上だ。すぐにバランスを崩して躰を傾けてしまった。
「加賀見さん」
 その椅子を抑えながら私が飽きれ返って笑ってしまうと、ようやく目を醒ました加賀見が状況を把握しきれないように事務所内を見回した。
「昨夜は残業だったんですか?」
 彼の機嫌を損ねる前に椅子から手を離し皮肉を飛ばすと、加賀見は聞こえてない振りで体を伸ばし大きく欠伸をした。
「人のメールを覗き見するなんて余り良い趣味ではありません」
 見られて困るものではないし、私の言えた台詞ではないがそう言ってやることで加賀見を挑発すると案の定加賀見はばつの悪い表情で顔を逸らした。
「まして、人のデスクでオナニーするなんてね」
 私の掛けたはったりに加賀見はまんまと嵌ったようで、乱暴な仕草で席を立ち上がると私の顔も見ずに二階へ向かってしまった。今日も加賀見は降りて来ないかも知れない。