兄姦(6)

 その後兄が学校に居残る日には俺は母にジョギングに行くと言って家を出た。
 扉の窓から兄の痴態を見ては、その場で何度も自身の肉棒を扱き帰って来てからも次の兄の居残りの日まで毎晩のように思い出して、自慰に耽った。
 俺の脳内で兄を虐げているのは俺自身だった。冷たい表情で兄を見下ろす数学教師でもない、兄を玩具のように扱って下司な笑い声を上げる先輩方でもない、兄と血の繋がった、紛れもない肉親であるこの俺が兄を奴隷のように床に這わせて自分の思うが侭に泣かせ、悶えさせて俺のザーメンを浴びせ掛けた。兄を犯す想像をすると俺は何度でも勃起した。
 兄が中学校で何度、何人の男にどれだけ淫らに躰を開いたのか、正確な数を俺は知らない。
 しかし高校での人数は把握しているつもりだ。
 俺は兄が希望通りの進学校に合格して大人達の賞賛を浴びながら迎えた春休みに、それまでの悶々と鬱積した欲望を実現する為の行動に出たのだ。
 兄が、受験を終えた後学校に登校しなくなってから先輩方や先生、学校の人間と逢っていたことがないのは把握していた。つまり、週に二~三回は弄ばれていた躰を急に放り出されたのだ。
 三年生の春休みは早い。俺が春休みに入った時には既に兄の身体は火照っていたに違いなかった。

「……潤樹」
 兄の部屋に入ることなど小学校の低学年以来のことだったが、急に訪ねた俺の姿を見ても兄は驚いた様子の一つも見せなかった。兄の部屋は雑然としている俺の部屋とは正反対で、何もかも整然としている。
 身体の欲求はどうしようもない筈なのに、玩具に飽きた先輩達に自分から連絡を掛けない兄は自分の本心を押し隠そうとしているのかも知れないとふと思った。この部屋のように。表面上を綺麗に整えておけば誰から見ても完璧に見える。
 でも俺は知ってるんだ、兄の本性を。
「兄貴、ちょっと本貸してよ」
 数年振りに話したような兄弟の不自然さを、兄も感じていただろうに戸惑いを見せようとはしない。直ぐに微笑んで、立ち上がった。
「良いよ、何の本?」
 良い兄貴面をしていられるのも今の内だ。あと一時間もしない内にお前は俺の奴隷に成り下がるんだ。
 父親は会社に、母がパートに出掛けていることはきちんと計算してあった。母が夕飯の支度をして帰って来るまで、たっぷり四時間の猶予がある。俺は時計の文字盤で二の字を指した短針を確かめて心の中でほくそえんだ。
「何か、適当に」
 俺は勝手に兄の本棚に手を伸ばした。一冊取り上げて、床に落とす。その横の本も床に放り投げる。
「ちょ、……っ潤樹、何するんだよ」
 兄が俺の奇行を制するように腕を伸ばした。その手を振り払って本棚を一列、乱暴に薙ぎ倒す。ドミノ倒しのような規則正しさで参考書や辞書が床の上になだれ落ちて、兄が息を飲んだ。
「潤、……」
 それきり口を噤んでしまう。
 兄が本棚の後ろに自分の欲望を隠していることは知っていた。自分自身でも目を背けたいものだったのかもしれない。
「兄貴、コレ何よ?」
 俺は本棚の奥から丁寧にティッシュに包まれた物を取り出した。何重にも包んであるけど、実際にそれで責められていた兄をつい数週間前に見たばかりだから俺にはコレが何か判っている。
「……、」
 兄は蒼白な顔をして、眉を潜めた。何が起こっているのか把握出来ていない表情だ。
 のどかな春休みの、家族と暮らす平穏な日常生活の中で、対峙しているのが実の弟だという現実と
 突き付けられたものに思い出される快楽の記憶とがあまりにも縁遠くて結びつかないのか。
「なぁ、兄貴、コレ何?」
 俺はティッシュに包まれたままのそれを兄の鼻先に突き付けた。
 時間が止まったかのように兄は棒立ちになり、床に散らばった本の表紙を見詰めている。参考書の山。兄が居残りから帰って来ても部屋に篭って勉強をしていたのは夜の学校で行われていたのが勉強ではなく痴宴だったからなのか、それとも兄は四人の男に輪姦されても尚鎮まることのない自分の体をこの部屋で慰めていたんだろうか。