兄姦(8)

 自然に唇が緩むのを覚えた。
 股間を鷲掴みにされたような擬似的な快感が背筋を走っていく。
 床にぐったりと四肢を投げ出した兄の、俺を見上げる眼が潤んでいる。唇は俺の先走りを塗りつけられて赤く光り、頬は隠しようもないほど上気していた。そして何よりも股間に膨らんだ欲望の象徴が兄の変態性欲を証明している。
「……へぇ、兄貴は実の弟に変態とかホモ野郎とか言われて、腹蹴られて……、そんで悦んでんの」
 膝を立てた兄の肩を足の裏で踏む。兄が小さく呻いた。しかしその声はもはや悶えているようにしか聞こえない。足を乗せたまま下着ごとジーンズを下ろすと、俺の肉棒が仰臥した兄の頭の上で弾け出た。
「……っ、潤……」
 涙声で兄が呟く。見開いた瞳は俺の股間に釘付けだった。
「何だよ、チンポ欲しいのか?」
 俺は兄の顔の上を跨いで、裏筋を自分の指でなぞって見せた。ぴくんと肉の跳ね上がるのが、兄にも見えているだろう。生唾を飲み込む音が部屋中に響いたような気さえした。
「ほし……ぃ・です……っ潤樹の……大きい……」
 熱に浮かされたような声で兄は言った。表情は蕩けていて、涎を垂らしていてもおかしくないような浅ましい表情だった。
「大きいチンポが欲しいか」
 言葉を投げつける度興奮が増していくのが判った。俺が興奮していることを兄も見ているだろうし、兄が興奮していることを俺も判っている。
「欲しいです、しゃぶらせて……下さい、ッ……何でも言う事ききますから……」
 兄は中学に在学中、どれだけの男に尻を振って強請ったんだろうか。俺のチンポを欲しがって哀願する様子は充分堂に入っていた。
 ふと、些細な競争心が頭を擡げてくるのを感じた。兄が今まで銜え込んだ男の中で俺はどの程度なのか、居残りから帰ってきた兄は家族の前で何事もなかったかのように振舞っていたが、俺はそんなことも出来ないくらいにしてやる自信があるのだと
 兄がただのチンポ狂いではなく、俺のチンポに狂うように躰を開発してやりたいと
 俺の命じるままに男と交わり、俺の命じるままに禁欲し、発情して狂って、俺の肉欲に全身を費やすよう調教するのだ。
 兄を最初に犯した奴が誰かは知らないが、そいつの癖など全て忘れて俺の肉しか求めないように
 もう一度一から叩き直して俺好みの肉便所に改造してやろうという欲求が躰の奥から突き上げてきた。
「俺専用の便器になるか?」
 手の中で欲望ががちがちに滾り燃えていくのが判る。いつしか俺も肩で息をしていた。
「して下さい、潤樹の喜ぶような便器になります……だから、大きいおちんちんを……早く……ッ」
 兄の言葉は信用がならなかったが、信用を求めて吐かせる台詞なんかじゃない。兄に言わせる台詞は兄自身への呪縛に他ならない。哀願するために唇を動かすたび、自分が本当にそういう存在になったかのような気がしてくるのだ。
 俺は兄が言い終えるよりも先に跨いだ兄の顔面に腰を下ろした。勿論上からチンポを飲み込ませるために。
「……ェぐ……っ・!」
 兄は舌の上で俺の尿道裏を擦りながら初めて味わう肉親のペニスを飲み込もうとしたが、その大きさに途端に噎せ始めた。
 這わせた舌を暴れさせ、侵入しようとする異物を喉が追い出そうと狭められる。そこを無理に押し入ろうと腰を落とすと、兄は躰をのたうち回らせて起き上がった。
「え……ッ・ォえ、っく……ふ……!」
 俺の肉棒から顔を背けると、兄は背中を波打たせて床の上に嘔吐した。唇を押さえ、細い肩を震わせている。それでも股間は鎮まっていないようだ。
「ほら、欲しかったんじゃないのか」
 俺はそっぽを向いた兄の髪を掴んで再び男根を突き付けた。目尻をしとどに濡らしながら、兄は従順に唇を開く。
「ごめ……んなさい、怒らないで下さい……こんなに大きいの、初めてだったから」
 数学教師の肉棒は美味そうに頬張っていたくせに、と思った俺の苛立ちは兄の謝罪の言葉で俄に納得がいった。確かに昔から陰毛が生えるのも早かったし、大きさは友人から揶揄われるほどのものだった。
「潤樹のおちんちん、もう一度嘗めさせて下さい……、頑張って、全部しゃぶりたいんです……」
 兄は俺の腿に縋り付くように手を這わせると横から屹立に唇を這わせた。長い睫が兄の頬に影を落とす。それを見下ろしながら、柔らかく熱い唇と舌に肉棒を愛撫される内、俺は射精感を覚えてぶるりと震えた。すかさず兄が亀頭からゆっくりと口に含む。
 俺の顔を見上げる目が揺れていた。気がつくと兄の股間は着衣の上からでも判るほど濡れていて、しきりに床の上に自身を擦り付けている。
「んふ、はァ……っふ・ん、むぅ……ン……」
 頬を一杯にさせ、喉を精一杯広げても俺の屹立は兄の口腔に収まりきらなかった。それ以上を進めようとすると直ぐに嘔吐しそうになる。
 俺は仕方なくそのまま腰を振り始めた。兄も悩ましげに鼻を鳴らして顔を前後させる。時折喉を突かれてえづいたが、それでもザーメンを欲しがり続けて兄は涎を溢れさせながら俺のものを銜えるのをやめなかった。
「イクぞ、……オラ、オラ、……オラっ!」
 俺は兄の頭を押さえ込むとフィニッシュのグラインドはどうしても根本まで銜えさせた。兄は俺の腿に爪を立て、顔を顰めながら爪先まで強張らせて食道の突き破られそうな痛みに耐えた。
 異物を押し出そうとする生理的な喉の蠕動運動が亀頭を揉みしだいた。ぞくぞくっと快感が駆け昇る。俺は天井を仰ぎ、喘ぐ声を隠そうともしなかった。
「あ、……アぁ、……ッ堪ンね……! ぉ、お……ッ・イク、出る……!」
 兄の耳にも俺の喘ぎは聞こえただろう、大きく広げた喉からは兄の欲望と肉体の葛藤さえ伺えた。
「ンむ……! んんー、っン……むぅ、うゥん……ン、ん、んん……」
 緊張した喉頭にチンコを叩き付けながら俺は鼻を鳴らす兄の唇に激しく射精した。