LEWD(16)

 躰ごと押さえ込むように互いの距離を詰めると、口を覆った掌を硬い歯がギリっと咬んだ。
「……ッ!」
 思わず私は息を飲んだが、この手を引っ込めるわけにはいかない。二階には家族がいるのだ。痛みを堪えて彼の口内に私の指をねじ込んだ。びくりと震えた舌を摘み上げると、ぐうっと低い呻き声が漏れて、彼の目尻に涙が滲んだ。
「――大人しくしてろよ」
 私は彼の耳元で囁いた。職場を失うかも知れないという意識はなかった。後になって思えばその時の私は相当奢っていたのかも知れないが、何も考える余裕がないほど興奮していたのだろう。彼は私が堪忍袋の緒を切らしてしまったのだと思ったのかも知れないが、そうではない。私は単純に興奮していた。怒りなどではなく、性欲の昂ぶりで。
 スーツの下で硬く勃ち上がったものを彼の下肢に押し付けると、ただでさえ驚きで目を剥いていた彼が喉を詰まらせて身を引く。自分のされることが判ったようだ。
 私はスーツのフロントを解き、彼のジーンズに擦り付けた。ビンテージで高かったんだと自慢して回っていたジーンズも、恐らくもう二度と履きたくなくなるだろう。私が彼に対して一方的に行為を終えた後の、屈辱と恥辱にまみれた彼の表情を想像すると勃起はぐんと熱を増した。勿論今でも酷く顔を顰めているが、こんなものではない。これからもっと、もっと私の欲をぶちまけてやるのだ。
 吉村に会うことも叶わない私の猛りは青年の薄汚れたジーンズで呆気なく果てようとしていた。荒い息を押し隠しもしないで彼の首筋に吐き掛ける。彼が嫌悪か恐怖で小刻みに震えているのが判った。
「柊?」
 あと少しで私が彼のジーンズに臭いザーメンを吐き掛けようとした時、社長の夫人が――つまり彼の母親が、一階に降りてきた。なかなか二階に上がらない彼を捜しに来たようだ。
「! ……ッ・ゥ、ンー……っ! ん、む、ぅう……ー……っ!」
 助けを呼ぼうと彼がの呻き声が一層大きくなる。今見つかっては堪らない。彼は全身の筋肉を出来る限りに駆使して私の力を振り解こうと暴れた。こうなってしまっては私の方が年を経ている分、分が悪い。
「加賀見さん」
 私は小さな声で詫びながら、彼の鳩尾を抉るように打った。

「柊――? ……いないの?」
 失神した彼の躰を機械の影に引きずり込み、私もそこへ息を潜めた。細君が工場を覗いても私達が此処にいるとは思わないだろう。
「……全く……」
 盛大な溜息を吐いて彼女は諦め、工場と事務所の鍵を閉めて二階へ上がってしまった。
 社長がもう一度探し直しに来たりはしまいかと私は息を潜めて暫く待ったが、その心配はないようだ。
 床に寝転がった彼はまだ目を覚まそうとはしない。私は彼の着けたシャツやジーンズ、下着を一枚残らず性急に剥ぎ取った。幾ら乱雑に扱っても、彼は痛みに呻くだけでまだ気を失っている。
 裸に剥くと彼の非力さは目に見えて判った。体を鍛えるどころかスポーツもしてきていないような躰だ。
 しかし、lewdに似通った部分がないこともない。私は臍から股間にかけての筋張った下腹部を掌でゆっくりと撫でた。lewdが男に欲情した原体験である所為か、私は若い男の薄い筋肉に欲情するようだった。もっとも、彼はlewdよりも、吉村と比べてさえひ弱に見えたが。
「……ん、……」
 撫で下ろした掌で彼の肉棒を握ると、気を失っていながらも彼は小さく反応を返した。緩やかに屹立し始めた若い肉棒に唇を寄せる。恥垢が溜まっている匂いがした。あまり女遊びはしないようだ。
 亀頭を優しく捏ね回すように撫でながら、幹を覆った皮を引き下ろす。ペニスの傾斜はますますきつくなって、そこから立ち上る匂いを嗅いでいる私の肉棒もすっかり力を取り戻した。
「、……ゥ、……うぅ……」
 彼が眉間の皺を深くして首を振った。気付き始めているのかも知れない。私はスーツのフロントを緩めるよりも先に彼の手足を彼自身の衣服で縛り上げることにした。履き古しているとは言えごわついたジーンズではきつく縛れまい。薄汚れたシャツで手首を束ね、後ろ手に拘束した。
 不意に、lewdに送った私自身のメールが脳裏を過ぎる。私は暗闇で唇に笑みを浮かべた。lewdは男に虐げられ、凌辱されることが性癖だろうが、目の前に横たわっているこの青年はそうじゃない。この私が、今からこの躰にそうされることの興奮を教えてやるのだ。
 下肢の熱がますます昂ぶるのを感じながら、私は首のネクタイを解いて彼の右足を二つに折ると腿と脛をきつく縛った。吉村にすらしたことが無いほど、容赦なく力を篭めた。これは解けてはならないのだ。遊戯の為の縛りじゃない、私の職も掛かっているし、彼に反撃されては堪らない。
 もう一方の足に、工場に転がった梱包用のガムテープを巻きつけた。掌の痛みを思い出すとついでに口も塞いでしまおうかと思ったが、それでは彼の泣く声を聞くことが出来ない。口を塞ぐのはいつだって出来る。彼は四肢を封じられて為す術もないのだ。