LEWD(20)

 吐精した青年はぐったりと躰を機械に預けて、泣き疲れて眠ったかのようだった。
「……加賀美さん、……起きろ」
 まだ彼の体内に埋めた私のものは熱を持ったままだ。
「今の声で二階から人が降りて来る前に、終わらせたいだろう?」
 耳朶に囁きかけると、ピクリと彼が反応を返す。私は彼の躰を反転させると、機械に腹這いにさせてバックから激しく突いた。筋肉で引き締まっていると言うのではなく、単純に肉付きが悪くて小さい尻が私のペニスを咥えて震える。肉をぶつける音。濡れた結合部から立ち上る匂い。背中を震わせながら、再び感じ始めて呻く青年の下肢を抱えると、私はがむしゃらに腰を打ちつけた。
 社長やその細君が降りて来る心配はない、しかしこんな場面を見られたら、と想像するとますます気持ちが昂ぶった。私の肉棒が射精に向けて張り詰めて行くのを感じているのか、彼の唇から熱っぽい声が溢れている。すっかり葛藤も去った、蕩ける表情をしている。
「……っ、イイぞ……もっと腰を振れ、腹の中を突き破ってやる――……ッ、ぅ……お・ォ……イク、イクぞ……ッ……!」
 私の体液を彼の中にどっと浴びせ掛けると、彼も弱々しく機械に爪を立て、腰を震わせてそれを甘受した。
 そして今度こそ泥のように躰を沈ませて、動かなくなってしまった。

 時計の針が七時を示す。流石に放ってもおけなくて私は彼の肩を揺さぶった。
「加賀美さん、朝です」
 何度揺すってもまるで反応がない。手の甲で頬を打った。最初は軽く二、三度。次は強めに一度打った。
「……、ぅ……」
 彼の安らかな眠り顔に皺が寄って、歪む。まるで昨夜見たばかりの表情と同じだ。
「起きて下さい、出勤します」
 私はもう顔を洗ってスーツを来て、事務所までの短い道程の間に朝食を調達すれば良い。此処の所残業ばかりで不動産屋を回れず、ずっとこのホテル住まいだったがいい加減住居を見に行かなくてはならない。食事を作ることは苦ではないのだ。
 恐らく今日からは残業もなくなるだろう。
「……ァ……?」
 腫れぼったい目蓋を開いた青年は、暫く状況を掴めないかのように辺りを見回す。白い壁、白い天井。安ホテルの室内はお世辞にも気の利いた作りとは言えない。
「おはようございます、着替えて下さい」
 昨日の皺くちゃになった衣服しかないが、彼は事務所に行けば家がすぐ上に有るのだ、着替えれば良い。
「……っ! ……」
 彼は私の顔を見るなり漸く昨夜のことを思い出したのか、ベッドの上の躰を起こした。しかしすぐに、痛みに呻いて蹲る。あれだけ盛大に裂けたのだから無理もない。床や機械の上で犯されて、身体中の骨も軋むだろう。
「早くして下さい、私まで遅刻します」
 彼が被った布団に手を掛ける。引き剥がそうとすると、その手を払われた。
「……っざけんな……行ける訳がねぇだろう……!」
 顔を伏せたまま、威嚇するような声だけが私に睨みを利かせているがまだあれから数時間しか経っていないのだ、私自身もはっきりと彼の感触を覚えているし、彼もまた同じだ。
「行けなくても行きますよ、着替えて下さい」
 私はもう一度時計を見た。工場が開くのが九時、工員が集まるのは八時半という所だろう。
「早く行かないと、昨日の行為の痕を他の人間に見付かります」
 宜しいですか、と尋ねると彼が私の顔を振り仰いだ。子供が大人に食って掛かるような、必死の剣幕だ。
「……ってめェが片付けろ、全部お前のしたことだろうが!」
 確かにそうと言えないこともない。私が彼の横暴に腹を立てて懲らしめるために凌辱したのであればまだしも、ただ私が彼に欲情しただけなのだから私のしたことなのだろう。
 しかし、私は掌を振り上げると彼の頬に強く打ち下ろした。彼は突然の暴力に肩を竦ませ、叩かれたまま顔を脇に向けて、俯いた。私に逆らえば酷い目に遭うのだと、まだ躰が覚えている、躾は今の内に済ませておかなければならない。
「これ以上打たれたくなかったら、さっさと着替えろ」
 私が背を向けて煙草を咥えると彼が痛みに堪えながらベッドを起き上がる気配がした。良い子だ。私が煙草を吸い終える頃には覚束ない足取りながらもきちんと衣服を着け、床を向いて立っていた。
「……行きましょう」
 鞄を掴んで部屋の扉に向かう。青年もおとなしく、ぎくしゃくと後をついて来る。
「……て、――……待てよ、……俺が金……払うから……っ、タクシー乗ってこうぜ……」
 とても事務所まで歩いては行けない、と彼は小さな声で訴えた。構わない、と私は了承し、部屋を後にした。