LEWD(29)

 田上さんの休暇は三日あった。その間加賀見は私の泊まっているホテルに毎晩訪れた。事務所でも熱い息を弾ませていることが多々あった。前の晩から私が彼のアナルに異物を突き刺したままにしていたからだ。そうすると彼から積極的に屋外での残業に誘われるのだ。
 塞がらない背後の傷は、性器で捏ね繰り回す度に血を滲ませた。あまり乱暴に掻き乱せば締まりのない躰になってしまうかとも危惧したが、加賀見は私が挑発すると直ぐ意地を張って締め付けてくるものだから、私は彼の腹の中に何度も射精した。
 田上さんが帰ってくると私の残業は今度こそ無くなってしまった。加賀見が連日の屋外残業で風邪をひいてしまった所為もあるのだろう。リフレッシュしてきた田上さんも最初の内こそ晴れやかな表情をしていたが、若社長の以前にも増して無愛想な態度に直ぐ表情を曇らせてしまった。
 加賀見にはこれといった友達も女の影もないようだ。学生時代に一緒にやんちゃをしていたグループの友達も、彼の我が儘に呆れてしまったのだと社長から聞いた。
 ホテルのベッドで彼の四肢を縛り、過去の肉体関係について言及すると学生の頃はそれなりに女遊びもしてきたらしい。私に亀頭を嬲られながら告白する様子が可愛らしく、暫く彼が立ち上がれなくなるほど乱暴に犯した。
 五時の時報が鳴った。工場の機械音がゆっくりと音を止める。田上さんが弾かれたように立ち上がって、お座なりな挨拶を残して去っていった。
 殆ど椅子に凭れているだけだった加賀見青年も重い体を椅子から起こして、鼻を啜りながら二階に上がろうとした。
「加賀見さん」
 私用メールチェックのためにパソコンを立ち上げながら私が声を掛けると加賀見の肩がびくりと揺れた。
「風邪なら、お薬を早めに飲んでおいた方が良いですよ」
 確か事務所の救急箱に総合感冒薬があった筈だが、私は――年の所為か――漢方薬を愛用していて、ここ数年風邪をこじらせたことがなかった。デスクの引き出しから愛用している薬を取り出し、鼻を詰まらせている加賀見に渡すと彼は無言で唇を噛んだ。誰の所為だ、とでも言いたいのだろう。私の所為では無いとは言えないが、私ばかりの所為でもないと思うのだが。
「……何か、あんたから貰うのってすげー怪しいんだけど……」
 細粒の入った包みを受け取った青年がぽつりと呟く。
「怪しい薬じゃありませんよ」
 確かに製薬会社の名前はないが、それは中国と直接取引をしている店で買った物だからだ。信用は出来る。
「……これ飲んだら、夜中、勃って眠れなくなるとか……」
 加賀見の顰め面が俯いた。
「まさか」
 lewdのようにその様子を私に伝えてくれるのでもなければ、その躰を慰めさせてもくれないだろう相手にそんな薬を渡したりはしない。そんな薬を持っていたら、ホテルでの遊戯で既に活用させただろう。
「……じゃあ、……どうも」
 不承不承といった体で加賀見が包みを掲げる。相変わらず、礼儀を知らない男だ。子供じゃあるまいし。私は肩を竦めた。
「お礼は風邪が治ってからで構いませんから」
 軽口を叩くと、睨みを利かせながらも唇を噛み締めたきり何も言わず、青年は二階の自宅へ上がって行った。
 折角多頭飼いをするなら、性質の違う犬が良い。妻との間に子供のいなかった私がいつか読んだペット関連の雑誌にそんなことが書いてあった。
 吉村は従順で、それこそ私の便所にだってなるだろう。唇を求めれば目蓋を閉じ、躰を求めればどんな体位にも応じ、肌を桜色に染めて悦ぶ。加賀見はどうだ。従順には違いない。しかしそれは私に従順なのではなく快楽に従順なだけだ。私に組み敷かれるのが好きなのではなく、暴力に組み敷かれるのが好きなのだ。唇を求めれば顔を逸らし、躰を求めれば乱暴な言葉で拒みながら甘い期待に性欲を疼かせる。どちらも申し分のない犬だと言えた。
 彼は一体どんな声で鳴き、どんな風に私に従属するのだろう。
 私はメーラーの受信フォルダに表示された未開封メールをクリックした。ご主人様、命令をお願いします――の一文で始まるhtmlのメール。lewdからだ。