LEWD(30)

 加賀見とこんな関係になるまでは、職場で性器を取り出して写真に収めるなどは出来なかったから、ホテルに戻ってからlewdへのご褒美としての画像を撮るようにしていたが、今は必要に迫られれば此処で抜くことだって――社長に見られることさえ避けられれば――吝かでもない。加賀見に手伝わせるということも考えられた。吉村にそうさせたように。
 lewdとのメールは、紛れもなく彼とのセックスだ。ホテルに帰ってから彼の、或いは他の男の肢体を思い浮かべて勃起したのと、こうして彼からのメールを直接眺めながら勃起するのとでは意味合いが違ってくるような気がした。
 実際のところ、彼が私にどの程度従順であるのか(メールの中でだけそうしていることは難しいことではないだろうし)私が彼へのメールにこのような拘りを持っているように彼も持っているのか、或いはお座なりな物なのか
 世間話も個人的な話も一切しない我々には互いの思惑など知りようもなかった。
 ただ確実に、息遣いだけは感じることが出来る。包み隠しもしない性衝動。肉体の疼き、上り詰める快楽。冷たい液晶画面が汗ばんでくるような気さえ感じる。貪欲な、体温で。
 私は下着の中に手を忍ばせて、隆起した欲望を握った。
 lewdは私に叱られて以来念を入れた自縛をするようになっていた。私にそのような趣味はないから判らないが、自分で縛ることも解くことも出来ないように見えるくらいしっかりとした結び目を作って、それを肉付きの悪い男の躰に食い込ませていた。
 コックリングを買おうかと思ったこともあるようだが、私は彼が自縛する荒縄でその代用をさせろと命じた。ふしだらな涎を滴り受けるほど縄の締まりはきつくなっていくだろう。lewdのいる部屋はカーテンを閉め切り、何の変哲もない白い壁に囲まれたシンプルな場所で、時間の経過を写真から伺うことは叶わなかった。しかし時を経るごとに不自然に締め上げられた肉体も、肌に擦れる縄の瘤も、射精を抑制する戒めも、彼の躰だけでなく精神をも疲労させ、どんな責め言葉にも頭を垂れるのだろう。
 縄に擦れた肌が赤く、皮下出血をしている。カメラはセルフタイマーなのか、時折ファインダーの中心から彼の姿がずれている。
 芋虫のような状態でカメラに尻を向けたlewdは、まさしく男の楔を受け入れるためだけにしか機能しない肉壺だ。その中にディルドが埋め込まれている写真がある。
 その次のショットではその濁った色の玩具が、彼の力みによって少しづつ捻り出されていた。まるで排便をするかのような行為を、カメラに見せつけている。私に、見せつけている。
「……ッ・く――ふっ、ぅ……」
 私は手を忍ばせているだけでは我慢が出来なくなり、肉棒を引きずりだしてデスクの下で扱いた。
 事務所の中には時計の針音だけが響いている。時折、二階から社長家族の生活の音が聞こえる。中には若社長の発てた音もあるだろう。今、一階で私がこんなことをしていると知ったら彼はどんな顔をするだろうか。lewdに嫉妬するのだろうか。いつかのように。そして、吉村のように。
 先走りが掌に滲んでくちゅくちゅと水音をたてた。その感覚を早くしていく。回転椅子が軋む。
 lewdの尻からディルドが落ちた。そこには赤く熟れた肉襞が、欲望の滾りを突き入れて貰うのを待ち焦がれて淫らに口を開き、蠢いていた。