LEWD(37)

「梶谷さんがいなくて……寂しくて、それで、……怖かったんですけど……そういう人の集まるバーに行って……」
 自分の背が壁に当たると、ようやく追い詰められていることに気付いたように吉村は私の顔を仰いだ。その目が潤んでいる。情欲に。
「感じたか?」
 頬に手を掛けると、それだけで躰を竦ませて息を飲んだ。唇が震えている。係長に触られてこんな素振りでも見せたら、元々係長にその気がなくても犯されてしまうのではないだろうか。――……尤も、彼にそれだけの精力があれば、だが。
「…………、怖くて……」
 吉村は首を緩く左右に振って、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「僕は、梶谷さんに……その、虐められる……のが好きです……、知らない人に虐められるのは怖いから……」
 吉村も虐められなければ感じない性分のようだ。或いは、私がそうさせてしまったのか。
 壁際に押し付けた躰に、自分の身を擦り付けた。吉村の股間に膝をあてるともうすっかり熱を放っている。
「最後に男と寝たのは何時だ」
 スーツに掛けた手を滑らせて吉村が私の背を抱く。上気した顔を肩口に伏せようとしたが、彼の感じ入る表情を見るために私は彼の後頭部を壁に押しあてた。
「先月の始め……、ッです」
 膝の下の勃起を強く圧迫する。短い悲鳴を洩らして吉村の躰が緊張し、仰け反った。しかし直ぐに蕩けるように私にしな垂れかかってくる。息が甘く弾んでいた。
「何処で、どんな風に犯されたんだ」
 吉村のスーツを開いて、シャツの上から乳首を探った。私の膝に腰を押し付けて揺らめかせている彼が、待ちきれないとでも言うように胸を張る。躰中に刺激を欲して、自分でもどうして良いか判らないのだろう。先月の初めと言えばもう一ヶ月も前になる。
「店の……トイレで、一回出して貰って……それから、ホテルに行きました」
 硬くなった乳首を指先で摘むと吉村の眉根がきゅうっと寄った。摘んだ先端を指先で押し潰す。
「ゃ、……ァあっ・梶谷さん、駄目……ンぅ、……僕……ッ」
 背筋を戦慄かせた吉村がますます吐息を荒くして腰を押し付けてきた。壁から背が離れている。私はその隙間に掌を差し入れて、吉村の躰を抱き止めるようにしながら背を撫で下ろした。
「どうだった、その男のセックスは」
 縋り付くような吉村の掌が私のスーツを握っては落ち、何度も握り直す。力が入らなくなってきているのか。表情を見せろという私の気持ちが判っているらしく、吉村は首元を晒して淫らな表情を私に向けている。
「沢山しゃぶらせてくれて、……突き上げも良かったんですけど、……はァ……ッふ、……でも、やっぱり……ッ、僕・ぁ、梶谷……さ、ンっ!」
 壁との隙間に差し入れた私の掌が吉村の尻を撫でると吉村は甲高い声を弾けさせて身を捩った。唇がだらしくなく開いて、濡れている。
「やっぱり、何だ? その男じゃ虐め足りなかったか」
 スーツの縫い目に指を沿わせて双丘をなぞる。吉村は吐息を震わせながら首を何度も上下に振った。
「何度もイったのか、その男のザーメンを嫌と言うほど浴びたか?」
 今度は首を弱々しく左右に振る。前の欲望も擦り付けたいし、背後の淫穴も弄られたいし、と吉村は腰を前後させながら既に乱れた表情を見せていた。余程の欲求不満に悩まされていたのだろう。私が彼を犯す前は随分ご無沙汰をしていた筈だったが。妻の前では淡泊だった私がlewdに、そして吉村に欲望の捌け口を見出してから精的に満たされたように、私が吉村に淫らな病を伝染させてしまったのだろうか。