LEWD(39)

 獣染みた吐息を弾ませる吉村の姿を、他の社員が偶然にも目撃してしまったら大騒ぎになるだろう。私が職を失うのに吉村を道連れにする気はなかった。吉村もその危機感を覚えているのだろうか、浅く繰り返される呼吸は収まりそうもなかった。
 社内の薄暗い階段の途中で、こんな風に欲望を剥き出しにすることが危険だと思えばこそ、その感度は高まっていく。彼の絶頂に手を貸すことはしなくても、私が努めて冷静を装うことで吉村は追い詰められた快感に身を震わせているようだった。
「梶、……ッは・ゥ……んっ……!」
 内股を擦り合わせて躰を小刻みに揺らし、股間の膨らみを掌で覆い隠している。覆い隠しているのかそれとも自らの手で刺激を与えているのかは判断できないが。
 吉村の強請るような声を無視して私が携帯電話を開くと、相手は間違いなくlewdだった。
 本文は短く、今、電車の中です、とだけある。下に画面を滑らせていくと、携帯電話に内蔵されたカメラで撮ったのであろう写真が貼付されていた。
「吉村」
 私はその写真を見ながらスーツのパンツを開いた。私が言葉を繋げるまでもなく吉村がその中に鼻先を擦り寄せてくる。熱い息が下着を通して私の局部に纏わりつく。
 吉村の股間から立ち上っている性欲の香りが私の腰を疼かせているのか、それともlewdからのメールが私を昂ぶらせているのか、吉村が犬のように口と鼻先だけで探り出した私の肉棒は既に硬く隆起していた。それを吉村が鼻を鳴らしながら丁寧に唇に含む。吉村の粘っこい舌に絡め取られて、亀頭がひくつくように傘を拡げた。
「ンく・ッ……んん、ぅ……」
 咥内でグロテスクに形を変化させられた吉村の目元が一際赤く染まっていく。吉村にこうして奉仕をして貰うのは久しぶりで、恐らく彼は他人にもこの貪欲なフェラチオをしてやったのだろう、そう思うと以前よりも上手くなったように感じた。それと同時に、他のどんな男よりも私のペニスが彼を悦ばせるということを教え込みたい衝動に駆られた。
 lewdからの写真を、小さいディスプレイいっぱいに表示して舐めるように見る。亀頭を美味そうにしゃぶった後横笛を吹くように唇を幹に滑らせた吉村に、その画面を徐に向けた。
「lewdも今こうして勃起しているようだ」
 無論顔は映っていない。しかしいつも受け取る写真と違うのは、彼が電車の中にいるということだ。満員と呼ぶのにはほど遠い、昼下がりの空いた電車の中で、彼は身を熱くさせていた。その様子を携帯電話のカメラに納めている。