LEWD(45)

 恐々と躰を引くと、互いの間に糸を引いて交じり合った体液が溜まっている。思わず顔を見合わせると吉村がすまなそうな顔をするので、私は笑った。
 とろりと流れ落ちる汁を吉村の背後に塗りこむように、彼の股間に前後から掌を這わせた。私に縋り付くように腕を回している吉村が息を詰める。体が小刻みに震えている。私の耳朶に掛かる息が熱く、火傷しそうだ。
「僕、……他の人と遊びましたけど……ッ、ン・ふッ……――しゃぶるの、は、何だか嫌で……、梶谷さんのザーメンしか、……飲みたくないから、舐めてもらうことはあっても、……舐めたことはありません……」
 途切れ途切れの告白が便所の個室に響く。私は暫くその言葉をの意味を計りかねて無言で彼の秘部を探った。返事もないまま蕾を己の精液で濡らされて、吉村は鳴きそうな声を上げて善がった。
「梶、……谷さん、僕、……ッ梶谷さんのことが好きです、……あの、だから――……」
 吉村がそこまで言い掛けた時、改札に向かう人の流れの中から数人の会社員が便所に足を向ける気配を感じた。吉村もその足音を聞いたのだろう、慌てて口を噤む。
「経理の足立、常務に呼び出されたらしいよ」
 会話する声が徐々に近付いて、大きくなっていく。それに伴うように吉村が私に擦り寄ってきた。興奮した時間を現実に切り裂かれたような思いがしたのだろう。その躰をゆっくり抱き返す。気配を悟られてはならない。息もしてはならない、というように吉村の唇に人差し指をあてる。その指は淫水で湿っていて、吉村はそれに舌を小さく這わせながらも安堵したように眸を細めた。
「今日の受付気合入ってなかった?」
 噂話に花を咲かせた若そうな会社員は二名いるらしく、他愛のない話題は途切れなかった。
 私の胸に身を寄せた吉村の双丘が、いきり立ったままの私の肉棒を掠めながら小さく震えている。私は吉村を抱き寄せた腕をそっと撫で下ろした。
「……ッ!」
 濡れ解した蕾に指先を這わせる。息を呑んだ吉村の背後はきゅうと収縮して私の行為を拒もうとしたが、そこを無理に突き破る。
「ヒ、ぁ……アっ」
 仰け反った吉村が小さく声を漏らした。慌ててその唇をもう一方の掌で塞ぐ。個室の外の話し声が一旦途切れた。便所に自分たちだけではないことに気付いたのだろう。吉村の躰が強張る。私も掌にじっとりと汗をかいた。
「……でもさ、係長のさ……」
 会話はやがて聞き取れないほどに潜められて、再開された。此方の異様な気配に気付かれたわけではないようだ。彼らが用を終えて手を洗う水音も聞こえてきた。
「……ン……ぅ……ん、……っ」
 掌で覆った下の唇から甘い息が漏れ始めていた。蕾に指を銜え込んだ吉村の頬が紅潮している。自ら腰を揺らめかせているようでもある。私はその指をわざとじわじわと侵入させて、根元まで嵌めこんだ。ぴく、ぴくんと吉村の腹が震える。嵌めた指を引き抜いて、今度は指の本数を増やして一息に突き入れた。
「ン……っ! く……ゥン……!」
 背筋を痙攣させた吉村の躰が跳ねる。便所の外には漏れ出ても水音と彼らの会話でかき消されているだろう。くぐもった、小さな喘ぎ声だ。
 用を済ませた若い会社員が去ろうとしたのと入れ違いに、再び足音が聞こえた。今度は会話もなく、一人のようだ。先の二人の足音が去って行く。しかし吉村の緊張は解けなかった。
 一枚の薄い扉を隔てて他人がいる、或いは自分と同じ会社の人間かも知れないと思う恐怖は、吉村の躰を硬直させながらも同時に淫らにさせた。私の指を咥え込んだ肉襞はまるでそのもの自体が意思を持っているかのように私の指に絡みつき、激しい刺激を求めた。
 戸外の人物はやたらと何度も大きな溜息を吐きながら、出の悪い小便を垂れ流し始めた。苦労の多い管理職なのかも知れない。
 私は彼の溜息を吐くタイミングを計りながら、吉村のひくついた肉穴に亀頭の尖りをあてがった。
「……っ……!」
 吉村の目が見開く。挿入される期待と、他人がいる場所で行われる不安感とで瞳が揺れている。
 小便を済ませている男が低い声で鼻歌を歌い始めた。古い演歌だ。これから一杯飲んで帰ろうかとでも考えているのかも知れない。
 赤く色付き、盛り上がった肉壺に肉棒を押し当てる。吉村が肩を竦めて唇をきつく結んだ。鼻孔から甘ったるい息が漏れた。それが声にならない内に私の肩口に顔を埋める。埋めることで浮いた腰に、性棒を捻じ込んだ。
「やぁ……っ、……ア……ッ、ンく、……ゥ……ッ!」
 襞をカリの張った熱い棒で掻き分けられると顎を上げて吉村が悶えた。戸外の鼻歌が途切れる。私は吉村の顔の下半分を乱暴に掴むようにして唇を覆い直し、戦慄く肉に昂ぶった凶器を突き上げた。
「――……ッ! ッん、……ン・くゥ……ッん、ンんぅ……――ッ!」
 仰け反って首を左右に振る吉村の頭を個室の扉に当てた。大きな鈍い音が響いた。躰を浮かせた吉村の肉を追うように私も便座から立ち上がり、吉村の腰を抱え上げて突き上げる。くぐもった声が裏返って、歓喜の嬌声になる。鼻歌も小便の落ちる音も止まっていた。便所には扉の蝶番が暴れる音が響き、それに合わせるように吉村の噛み殺した声が、そして私が彼の肉穴を穿つ水音が洩れ始めてきていた。
 やがて疲れた会社員も状況を察したのか、急に早足で遠のく足音を聞いた。吉村には聞こえていたのかどうか、判らない。体内を掻き回される熱い肉棒のことしか考えられなかったかも知れない。射精を迎える頃には声を押し殺すことも忘れていた。