LEWD(54)

 工場の機械音が鈍い震動となって加賀見の私室の床を叩いている。
 私に命じられた加賀見は耳を疑ったかのように眉を顰めて、布団から眼だけを覗かせた。その眸が揺れている。カーテンを閉め切った窓から指し込む太陽の光が私の背に当たり、加賀見の伏せたベッドに影を落としていた。そのためか、彼の顔色までは判らない。
「――……何、」
 言ってるんだ、という言葉がどうしても続かない。
 布団から決して出てこない躰はすっかり熱くなっているのに違いない。私はそれ以上命令を重ねようとは思わなかった。加賀見は逆らわないだろう。私の命令を欲しがっていた筈だ、と――思い上がりかも知れないが――確信していた。彼はどんな形であれ、自分の鼻をへし折ってくれる相手を求めているのだ、強がる自身を踏み躙り、蹂躙して欲しいのだ。誰もが目を背ける自分の乱暴な態度を、押さえつけて欲しいのに違いない。彼が私を本気で厭うのであれば幾らでも逃げる方法はあるのだから。
「……早く、下……行けよ、――邪魔なんだよ」
 悲痛と思えるほどきつく眉を寄せた加賀見は目蓋を伏せて声を絞り出した。最後の抵抗だと、自分で伝えているような声だ。そしてその抵抗を突破して欲しいとも聞こえた。
「何をするのに邪魔なんだ?」
 私はそう尋ねながら、加賀見の被った布団に腕を伸ばし、彼が拒むのであればそれが千切れても構わないと思うほどの強さで剥ぎ取った。
「――ッ!」
 強張った加賀見の腕は布団を押さえることに間に合わなかったようだ。きつく閉じた両足の間に勃起を張り詰めさせて震わせていた。慌てて掌をあて隠そうとする。私はそれを止めなかった。手をあてれば、そのまま扱くことも容易いだろう。
「さぁ、扱いて見せろ」
 屈辱に耳まで朱に染めた加賀見が顔を俯ける。ベッドの上の体は胎児のように丸くなって、これ以上開くものかと強張っていた。
「そのままで居たってそれは萎えないぞ。私が見ていてやる、……さぁ、思う存分オナニーに励めよ」
 私に見下ろされたまま、加賀見のものが萎える筈もない。命令を続ける程にそのまま果ててしまうことはあるかも知れないが、それでも構わないと思った。指一本触れることもなく吐精してしまう加賀見の屈辱は、そして隠微な疼きは、計り知れないものになるだろう。
「足を開いて私に見せ付けながらチンポを弄れと言ってるんだ、聞こえないのか?」
 私は声を荒げた。先程便所で扱き出したばかりだ、私は到底勃起しないと思っていたが、股間が熱くなるのを感じる。加賀見が意固地になるほど、虐げる悦びが増すのだ。頑なに身を縮めたその躰を打ってやりたい衝動に駆られた。
「ほら、ケツの穴もチンポも見て欲しくて堪らないんだろう、淫乱若社長」
 ますます声を張り上げた私を、加賀見が弾かれたように見上げた。
「ッ、……大きい声出すな……っ! 下、に……聞こえたらどうすんだよ……」
 私を見上げた眸が濡れている。ぞくりと背筋を震わせるような、劣情の色を隠しもしない――或いは隠せないほどの情欲に追い詰められた、眸だった。
「何をそんなに興奮しているんだ、えぇ?」
 加賀見の髪に手を伸ばす。毛先に触れただけでも肩を大きく震わせて、加賀見は首を竦めた。乱暴に髪を鷲掴みにして無理矢理引き上げる。加賀見は痛みに呻き声を上げたが、その割には全身を総毛立たせているようだ。引き摺り上げた躰が痙攣するように小さく震えている。
「私が便所でオナニーをしたからだろう、……私の匂いを嗅いで勃起したんだな?」
 髪を引き上げられた加賀見は顔を顰めながらも紅潮させ、ベッドの上に座り込んだ。勿論そのまま離して遣ろうなどという気はない。掴んだ髪をベッドの面した壁に打ち付けた。
「――っ・て……ッ!」
 後頭部を強かにぶつけた加賀見が頭を庇うように腕を上げた。その下で隆々と屹立している股間が彼の衣服を押し上げている。心なしか先端が濡れてもいるようだ。
「便所に篭ったザーメンの匂いで興奮したんだろう」
 言いながら私は加賀見の頭を再び壁に打つ。逃れようと身を捩った加賀見の肩も一緒にぶつけてしまったようだ。逃れようとする力が強くなるほど、私の力も強くなった。
「私のチンポがしゃぶりたくなって勃起したのか、それともケツを掘られたくなったのか?」
 加賀見が肯いているのかも否定の意を示して首を左右に振っているのかも判らない。頭を打ち付けるスタンスを次第に短くして、加賀見の抵抗の力を奪っていった。モルタルの壁に加賀見の頭がぶつかる鈍い音が私の頭にこだまして、もう工場の稼動する音も届かない。加賀見の耳にも同じだろう。
「ヤメ、……っ・やめてくれよ、梶……、梶谷さんッ……! 痛ェ……ッ」
 加賀見は髪に絡まった私の手を掴むと爪を立てて引き剥がそうとしながらもがいたが、――その股間が次第に濡れそぼって行く。知らず、欲情を高めているようだ。