LEWD(61)

 最後にlewd、と署名が添えられている。
 動画の重さは相当のものだったが私は迷わずにダブルクリックした。動画を表示するためのツールをモニタに最大化する。画像は幾らか見劣りしたが、恐らくこれが彼の本来の大きさだろうと思うと私は自然に自身の股間を撫でた。
 パソコンのスピーカーからlewdの身じろぐ音が漏れた。息遣いまで録音しようとすると他の雑音も収めてしまうのだろう、空気がマイクを撫でる音なのか、家の外を走る車の音か、雑音も混じっている。私はlewdの立てる音だけを拾おうと耳を凝らしながらもスピーカーの音量を上げることが出来ない状況をもどかしく感じた。
 片手に持っているカメラのスイッチをベッドの上に放りながら、lewdは足を大きく広げて映っていた。既に吐息が艶かしさを帯び、広げられた股間はそそり立って赤く熟れていた。
 いつも写真で見慣れている室内が、手を伸ばせば触れることが出来るかのように真実見ある映像として映し出される。いつもは皺の寄ったシーツを見るだけだったものが、lewdが腰を揺らめかせると皺が伸び、また新たに捩れて行くのを目で追うことが出来る。
 昼間に携帯電話で見たものよりもずっと如実に肉棒の震えを感じる。その上をlewdの指先が滑った。コックリングは外したようだ。微かになぞっただけで、lewdは腹を引き攣らせて甘い声を上げた。先走りが亀頭の窪みにぷくりと浮かび上がる。掠れた甘い声が途切れ途切れに弾んだ。
『御主人様、――僕、……早く……』
 初めて聴くlewdの声が私を呼んだ。もしかしたらこれは私個人にあてているものでは無いかも知れない、この動画を何人もの『御主人様』に送りつけているのかも知れないが、そんなことはどうでも良い。
 lewdは足を大きく開いたまま、一方の手をカメラの外に伸ばしてシェービングクリームを取った。背後の壁に背中を凭れさせながらそれを一方の掌に取って股間に塗り付ける。元々体毛は薄い方なのかも知れない。それでも首から下を全て剃り落とせという私の命令に沿って股間以外の毛は全て綺麗になくなっていた。広げられた足にも脛毛は見当たらない。
『はぁ、……ぁ……ッ・御主、……じん様……っ、僕、……僕の恥ずかしいところ……もっと見て頂ける、ように――……今、綺麗にします』
 シェービングクリームを塗っているのか、それともオナニーを止められないのか判らないような手付きで股間を濡らしながらlewdは腰を突き出して尻穴にまで手を伸ばした。ごくり、と唾を飲みこんだ私の体内の音さえ邪魔に感じる。
『ァ……あ、ン……っ御主人、……様……』
 見て下さい、と掠れた声が懇願する。濡らされて肌に貼りついた陰毛の間から、彼の赤く色付いた菊座が映し出された。そこに指が小さく何度も出入りする。ノックするような僅かな侵入だが、その度に秘孔は淫らにヒクついて、刺激を欲しがっているようだ。
 私は息を詰めて彼に示されるままその箇所を舐めるように見た。机の下では腿の間に掌を這わせて何度も肉棒を撫で上げたが、さすがにもう勃起は充分に果たされなかった。
 lewdは誰が命じているわけでもないのに、イキそうになると手を休めて射精を堪えているようだった。相変わらず顔は映らないが、時折躰を剃らすと顎先までが垣間見える。咽喉に筋を立てて、唇でも噛み締めているのか悩ましい呻き声を上げて首を振っている。
 荒い息がスピーカーを埋め尽くし、熱気さえこちら側に伝わってくるようだった。スーツの下の肌がそれにあてられたように汗ばむ。手を伸ばせば彼の肌に触れることが出来るような気がして、私はモニタに掌を這わせた。
 冷たいブラウン管の上を何度も弄るように動かしていると、次第に硝子が熱を帯びて行く。そしてlewdは私がこうするのを知っているかのように硬く尖った乳首を見せ付けながら身を捩って喘いだ。本当に私の愛撫を受けているかのようだ。
『御主人様、……っ御主人様に見られていると思うと、それ、だけで僕・ッ……もう――あァ……っイ、……ちゃ、ぁ……』
 止め処なく溢れてくる先走りがlewdの掌を汚して行く。先走りの多い性質のようだ。まるでもうイったかのように濡れている。
 射精しそうな声を震わせて身を痙攣させたかと思うと、lewdはまた手を休めて自信を律した。剃毛を終えたらイって良い、という私の言葉を守っているのだろうか。少しでも躰が落ち着くと、震える手で剃刀を引き寄せた。
 深く呼吸を繰り返しながら、時折それを飲み込んで咽喉を震わせ、lewdは恐る恐る肌に刃をあてる。指先が震えているのは快楽の所為なのか局部に刃を立てるということへの恐怖心なのか知れない。
 パンパンに膨れ上がった陰嚢を引き下げながら、ゆっくりと剃刀の歯が滑って行く。もっとその箇所をアップにして映して欲しいと願ってもアングルは最初から全く変わらなかった。これらの撮影が全てlewd一人で行われていることの証明になる。誰に強いられているのでもなく、恋人との関係のエッセンスとして他の男に見せている痴態というわけでもなく、純粋に彼の浅ましい欲望がこんな行為に駆り立てているのだろう。
 lewdの剃り痕はとても丁寧とは言えず、剃り残しは目立ったが縮れた毛が剃刀の刃に絡み付くと剃り味が落ちるようで、彼は何度も刃を拭い、肌を拭いながら漸く股間の周りをあらかた剃り落とした。