LEWD(69)

 多田の表情を見下ろすと、私の唇にも自然と笑みが浮かんだ。
 あの募集記事を多田自身が書き込んだものだったのかどうか、心のどこかで迷う気持ちがあった。その疑念もたった今、晴れたのだ。
 思い切り掘られたいというメッセージは、多田本人が発信したものだった。
「さぁ、昼休み中に終わるかな」
 私はスーツのジッパーを下ろしながら肩を竦めるようにして笑った。多田の笑い声が重なる。まるで何度もこうして躰を重ねた、爛れた関係の友人同士のように。
 扉の外では昼食に出掛けて行く社員達の声が相変わらず賑やかだった。吉村はもう、いないだろう。専務と何処かに出掛けたのか、それとも話だけで終わったのか。夜に逢う約束でもしたのかも知れない。
「梶谷さん遅漏ですか?」
 多田が肘を突っ張って上体を起こしながら軽口を叩く。まさか、と私は笑った。
 吉村のことを思った所為か、それとも多田とのこれからの情事を思ってか、私の分身は既に熱を帯びていた。我ながらこの年にしてよく衰えないものだと思った。もし妻に、私のこの性欲をぶちまけていたならば子宝には不自由しなかったかも知れない。
 或いは私には潜在的に、男性の躰にしか欲情しないような性癖があったのだろうか。
「へェ、思ったよりデカそうやな」
 独り言のように多田が呟いた。起こした上体を私の股間に寄せながら、開かれたスーツの中を覗き込んでいる。先ほどまでと変わらない、ただの人懐こそうな表情は上から見下ろすと不思議と淫靡にも見えた。
 浅黒い肌が裂け、白い歯が覗く。私が手を掛けるまでもなく吸い寄せられるように多田は私の下着に鼻先を寄せた。
「偶然、君の書き込みを見つけてね」
 何処のサイトで、と言わずとも判るだろう。多田は視線も上げずにジッパーを掻き分け、下着の中の膨らみを露にさせた。薄い布越しに多田の鼻先が掠める度、吐息を感じる度に肉棒は屹立の度合いを増していた。
 パンツのボタンを外す。斜めに仕舞った逸物は下着の腰のゴムを引っ張ってその中から零れ出したいともがいていた。
「随分と御無沙汰だったのか?」
 形が露になった男根の上を、多田が息を大きく吸い込みながら何度も鼻でなぞる。徐々に目蓋が落ち、時折唇が物欲しそうに戦慄いていた。好物の餌を目の前にぶら下げられてお預けを食らった犬のようだ。
「えぇ、……合コンとかはしてましたけどね、男の方は、とんと」
 私は多田がオイタをしないように時折彼の額を小突いて自身から遠ざけさせた。鼻先が好物から遠ざかると、多田は僅かに私を見上げて困ったように笑う。眼許に朱の色が上っている。それは彼の肌の色によく映えて、私を興奮させた。
「いつも掲示板で募集をしているのか?」
 触れずとも脈打ちを強くさせていく私のものを眺めながら、多田は喉を大きく上下させて唾を飲み込んだ。
「学生の時はハッテンバとか行きましたけど……どーも最近は、そんな気にもなれませんわ」
 その割に性欲だけは無性に湧き起こってくるから、欲しい時に掲示板で相手を探したり書き込んだりしている、と多田は答えた。
 私は資料の詰まった書架に手を突き脚を広げて立ったまま、多田に四つん這いになるように命じた。多田は物も言わず――ただ小さく笑うような吐息を零しながら、両膝をつき、掌を床につけた。
「その癖合コンは頻繁だったじゃないか」
 多田は鼻の頭を私の屹立に擦り付けながら、犬が鼻を鳴らすような小さな声を漏らし始めた。床につかせた膝がじりじりと狭まって、内股を擦りつけるようにしている。
「えぇ、まぁ……それはそれ、ですよ」
 多田は言葉を濁し、私を上目で仰いだ。許しを請うような媚びた視線だ。吉村のように純真ぶるのではない、お互いにそれが計算だと判っている。これがまるでゲームのルールであるかのような、お座成りな計算。
 彼は心から私に服従したいのではない。服従している自分を楽しみたいだけで、相手は私でなくても構わないのだ。
「良いだろう、服を脱げ。――下だけで構わないよ」
 私が許可を出すと多田は私の股間に頬を押し付けて体を支えながら両手を自分の下肢に回してベルトを抜き、ジッパーを下ろした。
 割り切った遊びとは言え、多田の肉棒は立派に隆起していた。よほど男が欲しかったと見えて、ぴったりと肌に張りついた下着は僅かに湿っているようだ。色が濃く変化している。
「梶谷さんのも、……出して良いですか」
 片手で自身を握ったまま、多田はうっとりとした視線を向けた。言葉を紡ぐ為に開かれた唇の中に唾液が溜まって、糸を引いていた。私は試しに彼の短い髪の毛に手を掛けて鷲掴みにした。多田は小さく表情を歪めて髪を引かれる刺激に眼を眇める。髪を後ろに引いて、私の股間から遠ざけた。
「ぅわ、虐めっ子やな……」
 濡れた唇に弧を描いて多田は笑った。しかし下肢の掌は我慢出来なくなったように上下にスライドしている。私はそのまま多田の髪を引くと、彼を冷たい床の上に座らせた。正座させた足の間にそそり立った肉棒は先端を濡らしている。それを指先で捏ねながら多田はくちゅくちゅとたてる音を自らも愉しんでいるようだった。
「夜の分も温存しておかないといけないんでね」
 彼の戯言を用いて笑うと、多田は大袈裟に納得したように笑うような息を吐いた。
「ほなら、……俺のこと。思い切り……掘ってくれないんじゃないですか」
 言いながら多田の息が短く浅いものに変わって行く。不満げに言葉を紡いだ後も唇を閉じることが出来ずに舌を覗かせていた。
「掘ってやるさ」
 私は多田の髪に掛けた手を突き離すように奥へと伸ばし、多田の躰を床に押し倒した。多田が短く声を上げてバランスを崩しながら、横向きに倒れ込む。勃起しきっていた肉棒も、驚きで僅かに萎縮したようだ。
「ッたぁ……梶谷さん、人のことボールか何かと思ってるんちゃいますか?」
 それでも私を非難する色は見せず、多田は観念したように横になったまま脚を広げた。床の上で形を潰している尻肉を見下ろし、しゃがみ込む。衝撃を吸収する素材で出来た柔らかい床の上で熱を帯びている下肢に手を伸ばすと、多田は短く息を詰めて顎を上げた。
「使い込んでる割には、……綺麗な色をしてるじゃないか」
 後孔の周りに映えた剛毛は、彼の下着の部分だけが薄くなっている肌の色と対照的に黒々としていた。それを指先で丁寧に撫で付けるように分ける。多田は短く笑ったようだが、躰の震えに阻まれて弾かれるように喘いでいるようにしか聞こえない。
「お褒めに預かり、……光栄、です……」
 脚を自ら大きく開きながら多田は片手で自身の、張った陰嚢を持ち上げて揉みこんだ。熱く濡れた息を床に向かって吐き出しながら腰が緩やかに動き出す。指先を掠めた菊座も愛撫を求めてヒクついていた。
 一方の手で多田の臀部を撫でながら、もう一方の腕を多田の腿に掛けると多田は進んで脚を上げ、私の肩に絡ませた。一度萎縮した肉棒も腹を打つほどの勃起を取り戻し、いつもはパソコンのキーをリズミカルに叩いているのであろう長い指先を駆使して裏筋を掻き上げている。
「此処を思い切り掘って欲しいんだったな」
 私は多田の下肢を抱え上げながら彼の恍惚とした顔を覗いた。もはや言葉らしい言葉はなく、ただ自身の手淫に耽って目蓋を震わせていた。
 表面を撫でた指先を、蕾の縁に引っ掛ける。
「ぅ、……――ッく……」
 不定期な収縮を繰り返していた肉の襞が異物の侵入を生理的に拒むようにきつく窄まる。しかしそれとは対照的に亀頭の小孔はだらしなく開いたのか、床の上に一筋の雫を零しながら震えていた。
 指先を掛けた窄まりをあやすようにして拡げながら、私は彼の体臭が篭った下肢に唇を近付けた。