LEWD(70)

 多田は一方の掌で自身の顔半分を覆うようにあてた。紅潮する頬の温度を計ろうとしているかのようだ。
 私は弾力に富んだ窄まりを指先で押し下げながら、舌先をその塩っぽい皺になぞらせた。ただが大袈裟なほど身を強張らせ、丸く開いた口から短く浅い息を弾ませた。
「何だ、……興奮してるのか?」
 思えば吉村も加賀見も私が初めて抱いた時、その躰は男に抱かれることを知らなかった。しかし多田は違う。恐らく私よりも男とのセックスを知っているに違いない。その多田が私の腕の中で息を乱していることが不思議に思えた。
「それともいつも、オナニーする時そんなに感じているのか」
 辱める言葉を吐きながら、私は大きく舌を出して菊座を一舐めした。か細い多田の声が聞こえた。私の唾液に濡らされた秘孔は赤く彩付き、欲望を求める緩みと異物を押し込まれることへの緊張とで忙しなくヒクついている。私はそこに縁に掛けたままの指を捻じ込むように突き入れた。
「……ッくぅ……ゥ・う……ン……」
 多田は歯を食い縛って咽喉を反らせ、床の上でのたうつように震えた。顔に乗せた掌をずらし腕で目元を覆っている。
 資料室は窓が少ない。窓が少ないから資料室として使われているのだろうが、薄暗い部屋の中でようやく見える程度の多田の表情は私を余計に昂らせた。顔の見えない奴隷――lewdを彷彿とさせるからか。
「君のようなバイセクシャルは、オナニーする時尻を弄るのか?」
 質問を投げ掛ける唇を尻穴に押し付けるとくぐもった声になった。腔孔から直接問い掛けるように体内に私の低めた声を吹き込むと、着衣の乱れていない多田の上半身が大きく波打つ。気付けば陰茎を扱く手の動きも疎かになっていた。
「それとも君はバイセクシャルなんじゃないのか、まるで女のように、尻を弄られることだけで感じるのか」
 問い詰めるように語気を強める。入口でねとりと這わせていた私のざらついた舌を、突き入れた指に沿わせて捻じ入れる。何の準備もないアナルは肉襞を引き攣らせて悦んでいるようだった。
「……ィ……っひ・ンぁ……ッ、梶、……ァ……たにさ、んは……」
 肩に乗せた多田の膝下が慄いて私の背を蹴った。それを振り払うように下肢を抱えなおし、高く掲げた。
 尻穴に口付けた私の鼻息で多田の陰毛がそよぐ。多田はカウパーで濡れたままの自身の掌をとうとう肉棒から離し、私にアナルを捧げるようにもう一方の腿を抱えて大きく脚を開いた。
 腹を叩くペニスの動きと連動して脈打つ前立腺を探って舌先を体内へと押し進める。息苦しくなる私の鼻腔からの荒い息が多田のそれと重なって混じり合った。私は多田の呻くような喘ぎに興奮し、多田もまた、私の呼吸に欲情している筈だ。
 濡れた肉塊で狭い腔道をねぶれば、そこに入りきれない唾液が多田の尻の谷間を伝い、また粘り気を帯びた水音が部屋中に響いた。
「ンん、……ァ・いィ……ッ――すげ、……っ・ィ…………たまんね……ッ」
 煙草をのんだばかりで表面のざらついた私の舌を出し入れしながら、窄めた先端で前立腺を探ろうとすると多田は声を上擦らせてよがった。上目で彼の床に落ちた表情を窺い見ると愉悦の所為か、彼の元の表情なのか、唇には笑みが浮かんでいた。
「堪らないか」
 私は唾液の糸を引かせて彼のアナルから舌を引き抜き、袖で口許を拭った。
 その手をスーツのポケットに忍ばせながら、コンドームを持っていない自分を恥じた。
「多田君、コンドームは持って無いか?」
 下半身を抱え上げられ、上体も殆ど浮いたままの多田に尋ねると、顔を覆った腕が半分ずり上がる。
「持ってない、……すね……まさか会社で、こないなるなんて……」
 思ってなかったから、という言葉が荒い呼吸に紛れた。確かにそうだ。
 私は愚問を詫びるように首を小さく竦め、スーツに挿し入れた手に携帯電話を構えた。多田は乱れた息を整えようとしているように胸を大きく上下させて目蓋を落としている。そこにはもう私の知っている吉村の友人はいないように思えた。
「仕方がない」
 女のようにたっぷり濡れるわけでも無いだろうと自分に言い聞かせながら、手に取った携帯電話を開き、
 多田のアナルにあてがった。