LEWD(7)

 私は空にしたグラスを床に置いた。吉村がきょとんとした表情で、まっすぐ向けた俺の眸を見返してくる。吉村は昨日の私の退社時間を知っている。だからあのタイミングでメールが来たとは考えられないか?そして今日は私と行動を共にしたからまだメールが来ていないのだ。
「lewd?」
 さすがに吉村の発音は良い。聞き返した後で、吉村はその言葉の意味に眉を潜めた。
「lewdが僕って、何のことですか?」
 写真の中の引き締まった下肢。惜しげもなく股を開いてそそり立った肉棒を濡らしたlewdの躰が瞼の裏にまざまざと甦る。メールに添付された写真には映っていない、臍から上へとファインダーを滑らせれば、そこには吉村の顔があるのじゃないか?
「私にメールを送ってきただろう」
 私が尋ねると、吉村はようやく肩で息を吐いてあぁ、と呟いた。その唇でカメラのレンズに視姦される歓喜にいつも戦慄いているのだろう。
「昨日言っていた、悪戯メールのことですか? 発信者がlewd?」
 白々しく答えた吉村に、私は腕を伸ばした。スーツの肩を掴む。
「梶谷さん、ッ?!」
 驚いた吉村が、手に持っていたワインを床に零した。グラスが割れて欠片が飛び散る。私はその汚れた床に吉村の躰を叩き付けるようにして薙ぎ倒した。
「しらばっくれるな」
 声を荒げたつもりだったのに、掠れてしまった。床に倒されて怯えたような目をする吉村の――lewdの演技が、あまりにも私を興奮させた。写真映りの良い躰を傷つけないようにガラスの破片を脇に避けると、私はその上に馬乗りになった。
「何、――何するんですか、梶谷さ……、ッ」
 ワインが入ってほんのり色付く筈の吉村の顔は蒼白している。自分がlewdだとばれたことがそうさせているのか。私は床の上で一番大きな欠片を拾い上げると、それを吉村の胸に当てた。私の下で吉村が短く息を呑む。全身に鉛を入れたように硬くなった。
「やめ、……っ、何でこんなこと――……」
 歯の根が合わないのか、言葉はそこで切れた。私は肩を押さえた手で掴み上げたシャツにガラスの刃を突き立てると、そのまま裾まで一息に切り裂いた。吉村の喉仏が震えてか細い悲鳴が漏れる。ぞくぞくと私は全身が粟立つのを感じた。突然の行為に恐怖の眼差しを凍て付かせている吉村の顔を見下ろす。先ほどまでの、信頼しきっている上司を見る目は微塵もない。
「何のつもりであんなメールを送ってきたんだ」
 裂いたシャツを広げると、案の定吉村の乳首もぴんと尖っていた。lewdは虐げられて辱められたくて堪らないのだ。こうして乱暴にされると感じてしまうんだろう。
「違います、僕はメールなんて、……っツ!」
 嘘を吐こうとする吉村の乳首を爪で押し潰した。背を仰け反らせて眉間の皺を深くするが、蒼白していた顔はほんのり朱を帯びてきたようだ。さすが淫乱だ。
「もうばれてるんだ、隠さなくて良い……」
 爪の刺激を受けて腫れ上がったようにますます硬くなった乳首を人差し指と親指の腹で優しく捩る。強張った吉村の躰が小刻みに震えた。私の乗った足をもじつかせ、靴下でフローリングを蹴る。下肢を触って欲しいのに違いない。
「違います、本当に……、僕は……」
 熱を帯びた息を合間に弾ませて、吉村は首を左右に振った。摘んだ乳首を押し潰すように力を加える。
「ィ・アっ……! 痛い……ッ!」
 丸く開いた唇。瞼はうっとりと閉じられて、私が想像した通りの――或いはそれ以上の、淫らな顔だ。私は吉村の腰の上に下ろした腰をぐりぐりと押しつけるように揺らした。確かな弾力性を持って図太い突起が押し返してくる。
「痛めつけられて勃起してるんだろう、お前はそういう子だ」
 唇に笑みが浮かぶのを耐えられなかった。耐えようともしなかった。吉村を、lewdを彼の望む通りに組み敷き、虐げているのだ。彼はこうして肉棒を隆起させて悦び、私も。体の心から身震いするほど興奮していた。
「違う――……っ、違います、僕……梶谷さ、ァ……っン!」
 吉村は自分の指を咥えて溢れる喘ぎを押し留めようとしていた。そんなことは無駄だ。私は自らの欲望の滾りを擦り付けるようにして吉村の腰を抑え付けながら、片手に握ったままのガラスの破片を吉村の乳首に当てた。
「…………! ゃ……ッ・やァ、あ……ぁあ、あ…………っやだ、……梶谷さんやめて下さい……ッ!」
 押し付けた私の腰を求めるように揺らめきそうだった腰も静止して、吉村の躰が再び凍て付いた。乳首の周りにぐるりと血の赤い線が一周する。ガラスの刃を立てたのだ。私が少しでも力を入れれば、吉村が少しでも身じろげば、硬く尖った乳首が切り落とされてしまったかも知れない。
「正直に言えよ、……自分がlewdだと」
 もう一方の乳首にガラスを当てる。吉村がその私の手を止めさせようとするかのように腕を上げるが、結局何も出来ずに指だけを添える。
「違う、僕は……そんなんじゃない、梶谷さん、違……ッ、ぁ・はァ……ん、んっ」
 ガラスを滑らせた先から血の玉が吹き出してきて、それがやがて線となって乳首を紅に飾り立てる。吉村は引き締まった腹筋をぴくんぴくんと痙攣させるようにしてそれを感じ、唇にもしまりがなくなってきた。恍惚の表情だ。ガラスを突き立てられて、怯えながら勃起しているのだ。或いは既に一度くらい果ててしまったかもしれない。
「強情な奴だな」
 私が腰をずらすと、強請るように吉村が鼻を鳴らした。発情期の獣のようだ。望み通りマーキングしてやる。