LEWD(8)

「こっちも弄って欲しいんだろう、正直に言えば思う存分苛めてやる」
 私が乗った所為で皺くちゃになった吉村のスーツのパンツを上から撫でる。吉村は一度膝を閉じた後で腰を突き上げるようにしながら大きく開いた。腕が伸びてきて、股間を擦る私の手を自分の勃起に押し付ける。
「梶、……ッ梶谷さん、僕の……っ、して下さい、して欲しいです、僕……!」
 一方の手で私のスーツを掴み、一方で私の手を自分の股間に抑えながら吉村は泣きだしそうな甘い声で強請った。私が引き止められた掌を僅かに窄ませただけで全身を戦慄かせて悶えた。
「あぁ、してやるよ。してやらないとは言ってない……昨日だって約束のメールしただろう、見てないのか?」
 無理もない。私がカメラを探し出して自慰を終えるまで時間が掛かりすぎた。送信したのは日付が変わる頃だ。
 私は背を丸め、吉村の乳首を彩った血の玉に唇を寄せた。舌先でちろちろと擽ってやると仔犬の様に鼻を鳴らしてよがる。吉村の血の味が口の中に広がって、私の股間にまで下ってくるようだった。張り詰めたものがスーツのジッパーを押し上げて、痛いほどだ。吉村だって同じ窮屈さを味わっているだろう。
「あっ、ンあ、梶谷さ、ぁン……ッ! 僕、……はぁ、あァ・ん……っ! もっと……も……っ……!」
 唾液で溶かした血の玉を乳首の先端前まで塗りつけ、唇に含む。キャンディのように転がして味わうと、吉村は掌から手を離して、私の頭を自分の胸へ押さえつけた。
「んぅ、痛い……痛いです、梶谷さん……ン……ふゥっ、う……ぅんン、……ん・ふぅ……っ」
 床の上で首を振り、唇を噛み締めてちりちりとした痛みに耐えているのか、傷口を舐められて痛いと訴えるながらも吉村は腰を揺らめかせて私の愛撫を欲しがった。ちゅぱちゅぱと音をたてながら、深く吸い上げまた放すのを繰り返すと、それに呼応して躰を痙攣させる。吉村が痛い、痛いと欲情に蕩けた声で囁くたびに私は興奮した。傷を刻んだ乳首に歯を立てた。
「ィ……ッ! ッひ、ァ……あ、あァ……梶谷さ……僕、……僕……ッ!」
 乳首を千切り取られそうな痛みに、吉村は私の髪を鷲掴みにして身体を強張らせた。薄いグレーのスーツの股間にじわりと染みが浮かぶ。痛みで達してしまったようだ。
 吉村の、堪えていたような細切れの声がますます蕩けて鼻に掛かる。忠誠を誓った犬が主人に媚びるような鳴き声だ。歯でその敏感な傷口をやんわりと噛んだまま、私は吉村の濡れた股間に手を伸ばした。ボタンを弾くように外してジッパーをお座なりに下げる。こってりとした精液で濡らされた下着を上から撫でると、肉棒はすぐに頭を擡げてきた。幹に貼り付いてしまった布ごと、脈を擦る。吉村は膝を立てて尻を床から浮かせた。
「今、お望み通り犯してやるからな……、lewd」
 吉村の下着が水音をたてる。乳首からは血の味がしなくなってくると私が噛み締めるものだから、絶えず血が滲んでいた。こんなに敏感な乳首を写真に収めないのは勿体ない。何故そうしなかったのだろう。
「違……っ、梶谷さん、それは僕じゃないです……」
 熱っぽい息を弾ませながら吉村はまだも繰り返した。乳首から顔を上げる。一旦は切なそうな表情をしながら吉村は俺の顔を見上げてlewdは自分じゃない、と訴えた。
「何を――、お前は自分のペニスを買ったばかりのカメラに収めて私のところへメールを送ってきたんだろう」
 吉村の瞳は情欲で潤んでいた。或いは痛みの所為かもしれない。その目を細めて、ゆるゆる、と首を振る。
「今更隠す必要などないだろう、私はお前を軽蔑したりなどしない」
 強情な吉村の態度に私は眉根を寄せた。もっと酷く責められたくてそんな詰まらないことを言い続けるのか?
「お前は尻の穴を犯して欲しくて自分のチンポを私に見せ付けてきたんだろう、犯して欲しかったら正直に言え!」
 私は業を煮やして声を荒げた。乱暴に吉村のパンツを引く。濡れた所為で下肢に纏わりついたままの下着を掻き分けるようにして、その奥の肉棒を掴み上げる。
「――!」
 再び怯えたように肩を窄めてしまった吉村の男根を、私は凝視した。確かにこれは私が何度も見たlewdのものとは違っていた。怯えている所為で若干萎縮しているとはいえサイズが違うように思うし、色も彼のものより淡い。カリは小さいし、陰茎の形も違う。
「梶谷さん、……」
 肉棒を握られたままの吉村が不安そうに私を呼んだ。我に返って吉村の顔を見遣ると、唇を震わせていた。
「すいません、あの、僕……」
 上体を起こそうと床に肘を突く。その腕にガラスの欠片が一片刺さっていた。それを払ってやろうと腕を伸ばすと、吉村は顔を伏せて首を竦めた。
「吉村、……乱暴にして、すまない」
 叱られた子供のように俯く吉村の髪を撫でる。握ったままの肉棒にやんわりと力を篭めた。床に座り込んだ吉村の足が震えた。
「吉村、……すまない」
 何に謝っているのか判らない。彼をlewdと間違えたことに対してなのか、それとも乱暴にしたことに対してか、それともこれからしようとしていることに対してか。
「梶谷さん、……あの、悪戯メールって……ッ、どんな……」
 吉村の欲望を握り込んだ掌をゆっくりと上下に扱きあげると吉村は私の躰に縋るように躰を寄せてきた。胸の中にその躰を支えてやると吉村は安堵したように、吐息の中に声を混じえるようになった。
「後で見せてやるよ」
 ぽつりと先走りを噴き出させた亀頭の孔を親指の腹でくりくりとねぶる。吉村が喉を晒して喘ぐと、腕の中に抱いている分、間近にその淫らな表情が見えた。
「クふ、っ……ぁ、あ・ン……っ! 梶谷さん、そこ、駄目です、……ッもう、あ、ァ……僕」
 一度達した後だからか、吉村は次々と止めどなく汁を溢れさせて私の手を濡らした。紅潮させてよがる顔を十分に晒した後で、私に見られていることにようやく気付いたのか慌てて顔を伏せようとする。その仕種がいじらしくなって私は吉村の唇に口付けた。
 人と唇を重ねることなど何年ぶりだろう。こうして肌を重ねることは以前にも行った風俗店でする事が出来たが、こうして口付ける事は――たとえ唇を合わせることはあってもそこに何の感情もなければ、儀礼的なものに過ぎない。妻との夫婦生活中にこうして口付けを交わしたことはあっただろうか。無論新婚の時は幾らでもあった。しかしいつからかそれはセックスの減少とともになくなって、私と彼女の間には儀礼的な触れ合いすらなくなっていったのだ。
「ン、んむ……ぅ、んぁ梶谷・さん……っ、かじ・……」
 舌を歯の間に挿し入れてたっぷりと唾液を含ませるようにしてやると、吉村はそれに溺れるように咽喉を上下させながら私の名前を何度も呼んだ。扱かれる肉棒をぴくぴくと震わせながら私の首にしがみついて、腰を揺らめかせる。鼻を擦り合わせながら何度も顔の向きを変えて、私は吉村の舌を隅々まで嘗め回すように絡ませた。
「ふぁ、ア……ん、梶谷さ、……、もっと」
 吉村が必死になって嚥下しようとしても唇の端から溢れる唾液に顔をべたつかせながら、私が息を継ごうと唇を離すと吉村は泣きそうな声で哀願した。寄せていた躰の向きを変えて向かい合わせになると、私の唇を吸い取ろうとするように顔を寄せてきた。
「お前、キスだけでまたイってしまうんじゃないのか」
 吉村の唇を宥めるように小さく啄ばんでから軽口を叩いてやると、私は自分の股間に吉村の腕を片方、導いた。今にもはちきれそうで、堪らない。まだ我慢できているのは昨夜自分で搾り出したからか。
「ぁ、……梶谷さん、僕……、……すいません」
 引かれた腕に押し付けられた屹立に触れると、吉村は赤い顔を上げて詫びた。
「……あの、僕……梶谷さんの、……」
 急いた手つきで私のジッパーを引き下げながら、吉村は言葉を濁らせる。先走りで先端を濡らした私の下着に触れると、吉村は感じ入ったため息を漏らした。私の手の中の吉村自身も淫らに反応したようだ。
 吉村はそれきり何も言わずに体を沈めて私の股間に顔を伏せた。私が吉村の肉棒を離さない所為で体勢は苦しそうだったが、文句は言わなかった。
「僕、あの、……下手くそだったらごめんなさい」
 消え入るような声で吉村が呟く。私は思わず口元を綻ばせてしまった。構わないよと告げる前に、吉村の舌が私の亀頭の割れ目をなぞった。
「……、っ」
 欲情を溜め込んでいただけに過敏になっている私の男根は、そうされるだけでひどく打ち震えた。吉村が片手で幹を撫で擦りながら、もう一方で膨れ上がった袋を揉んだ。どちらも慣れない仕草だったが吉村がそんな風にたどたどしい様子を見せるのは久しぶりのことだ。入社当初は時折そんな仕草を見せたが、今では立派に仕事をこなしてしまってまるでこんな風な吉村を見る機会もなくなっていた。
「……ん……、ン・梶谷さん、……」
 堪えきれなくなったように、吉村が私自身を口に含む。咥内を窄めて狭くし、ぬるぬるとした粘膜で絞り上げるように刺激を与えてくる。私が手を添えたままの吉村の肉棒を擦ると、鼻腔から甘い声を漏らしながら夢中で顔を上下させる吉村の咽喉に私はたっぷりと射精したくなった。
 床の上に蹲るようにして奉仕する吉村の脇にゆっくりと体を沿わせる。吉村は一度口を離して目を瞬かせたが、すぐに私の思惑を察知して前よりも激しく貪りつくようにして私の肉棒に食らいついた。