LEWD(71)

 ひやりとした感触に多田は背筋を小刻みに震わせ、自分の後孔を覗き込んだ。
「――、何……」
 紅潮した頬に薄っすらと汗を滲ませながら多田は眼を丸くして私の手許を凝視し、また私の顔と交互に見比べた。
「梶谷さん、ッ……何しはるんですか・そんな……!」
 携帯電話のアンテナ部分を多田の尻穴に引っ掛け、下に傾けると熱をもった窄まりがねちゃりと音をたてて開いた。普段外気に晒されない体内へ、日の差し込まない資料室の冷たい空気が入り込んだのだろう、多田が息を詰める。
「やめ、……っ」
 多田は腿を掲げていた腕を股間に宛がい、掌で覆い隠そうとしたが私はその手を振り払うように、僅かに開いただけのアナルに携帯電話の頭を捻じ込んだ。
「ィ……っ・ぅ……! か・じたに、さ……ァ……」
 縦長の薄い無機物を銜え込んだ多田が歯の根を鳴らしながら短く息を吐き出す。宛がわれた掌は自らの肉に爪を立てて震えていた。
 皺を伸ばした菊座は赤く充血し、携帯電話を捻じ込まれて尚、ヒクついているようだ。或いは異物を吐き出そうとしているのかも知れないが。
「ほら、……思い切り掘られたいんだろう?」
 私は携帯電話の下の部分を持ち直し、上下に小さく弾ませながら入口を拡げて侵入を試みた。事前にたっぷりと濡らしたおかげで、多田のいきみが時折途絶えた隙にぬるり、ぬるりと面白いように飲み込まれていく。携帯電話が尻穴を侵していく度に多田が短い呻き声を上げてアナルが縮まり、しかし直ぐに詰めていた呼吸が堪えきれなくなったように息を吐くと携帯電話は前進した。
「梶、……ッ・谷さん、変態、やなぁ……」
 やがて二つ折りの電話の前半分を咥え込んでしまうと、観念したように長く震える息を吐いた多田が苦笑交じりに呟いた。多田の腹の上には透明な汁がたっぷりと零れてどろどろになり、ワイシャツも透けてしまっている。私を変態だと言いながらも己の雌の部分を刺激されて感じているのだろう。
「こないな人やと、思ってなかった……」
 そう言った多田は口許に笑みを浮かべたまま、うっとりとしたように空ろな眸を閉じた。下肢に伸ばした手を再び額に戻すと滲んだ汗を拭う。
「――吉村にもこないなこと、してはるんですか?」
 汗を拭った掌の隙間から、多田が私の顔を見上げた。
「何、……」
 今度は私が息を詰める番だった。
 吉村、と多田が言ったと思うのは聞き違いだろうか。まさか私との関係を、吉村が多田に喋ったのだろうか。だとしたら多田の性癖も吉村は知っているのか?
 言葉に詰まった私の肩に、多田の足が絡み付いた。銀色の電話を挿入された、卑猥な下肢を見せ付けるように私の眼下に晒す。
「やっぱりね、そうやと思ったんですわ……吉村の梶谷さん好きは普通やないですもん」
 多田はうろたえた私を可笑しそうに笑い、自らの手で電話機を揺らした。
 「ゲイにはゲイが見抜けるもんなんですよ」
 多田の低い声が、資料室に響いた。