LEWD(75)

 私の言葉を聞くと吉村は案の定、濡れた口端を震わせた。笑いそうになることを堪えているようにも見える、快楽の表情に見えた。彼は無意識なのかも知れない。それとも無意識を装っているのだろうか、自分自身に対しても。
「――僕が、望んでしていることですから……」
 消え入るような声で吉村が呟いた。
 私も、今吉村と同じような表情をしているのだろうか。或いは私は本当に笑っているかも知れない。無自覚ではいられないと思っているが、しかし意識してそうしているのではない。吉村の匂い立つ被虐願望に、眼が眩んでいるのだ。
「望んで、専務に抱かれるのか」
 私が言うと、吉村がはっとして眼を開いた。私の顔を仰ぎ見る。
「あんな老いぼれた男に足を開いて、私にそうしているように腰を振ってよがるのか? ――それがお前の望んでいることか」
 吉村の見開いた眸に私の表情が映っている、私はそれにまた煽られるように笑った。
 吉村を蔑んでいる自分の顔が、そしてそれを怯えたように見上げた吉村の震える肩が、私を興奮させた。
「梶、……たに、さ……、僕・」
 取り繕おうとする吉村の、私の胸の上にある手を払う。吉村が唇を噛んで視線を伏せた。しかしその股間は熱を帯びているに違いない。私にはその抱きなれた躰がどんな期待に打ち震えているのか手に取るように判った。吉村だって同じだろう。
「その様子じゃお前は私のためだということも関係なく、まだ夜な夜な男の集まる店に通って顔も覚えていないような男を咥え込んでると見える」
「違います!」
 吉村が弾かれたように顔を上げた。しかし続いた言葉は徐々に弱くなっている。今は通っていない、最初の内だけだと弁解するが、それでも以前通っていたということが彼に罪悪感を抱かせているのかも知れない。
 彼が私に操をたてる義理などないことは私も吉村自身も知っている筈だ。しかし彼にとっては私に忠実であることが彼の満足なのだ。
「違う? ……どう違うんだ? 専務のチンポを美味そうにしゃぶっているくせにか?」
 問い詰めるように吉村の肩を小突くと、彼は必要以上に首を竦めて身を硬くした。
 まだ寝ていないと言ってはいたが、着々と親密な関係にはなっているのかも知れない。それこそ専務の勃起しない男根を貪るくらいには。
「さっき、専務と一緒にいるところを見せて貰ったよ。……なかなか親密そうだったじゃないか」
 自覚できるほど、私の声は笑っていた。
 資料室に飛び込む前に見た、吉村の表情を思い出す。今、吉村は私の言葉に唇の色をなくして言葉を失っていた。私にはそれが、専務の前で見せるような乱れた表情よりも余程いかがわしいものだと確信していた。
「専務の萎えたチンポは美味かったか、え?」
 吉村の緊張した肩を更に小突く。後ずさった彼の背後には多田が崩したままの段ボールの山があった。
「尻は弄ってもらったのか、それともオナニーショーでも見せて媚びたのか?」
 吉村は答えなかった。事実がどの程度なのか私には知る由もない。吉村も答えないかも知れない。彼にとっても私にとっても、こうして問い詰めることだけが答えなのだ。
「どうなんだ」
 結んだ唇を開こうとしない吉村を叱るように語気を強め、肩をことさら強く弾いた。
「、っ」
 右肩を翻した吉村がバランスを崩して段ボールの上に腕をつく。深く顔を伏せた彼の頬に柔らかい髪が落ちた。