LEWD(76)

 多田との情事の痕跡の上に吉村を追い詰めると、私の欲情は俄かに背筋を駆け抜けた。
 小動物のように身を縮めている吉村が、私の顔色を窺うように視線をそろりそろりと擡げる。しかしその眼線が、膨らんだ私の股間で釘付けになり、止まった。
「梶谷さん、……ごめんなさい、あの、僕――専務とは、一度だけ食事をして……あの、でもまだ寝ていません。……本当です」
 吉村はそう言いながら床に手を下ろし私の足元ににじり寄るように近付いた。時折顔色を窺い、直ぐに私の股間に視線を戻しながら。
「そうか」
 低めた声で肯くと、吉村もようやくほっとしたように肩の力を抜く。にじり寄った足元に、まるで忠誠の証でも刻もうとするかのように額を擦り付けた。人間としての自尊心を捨て、私にだけ媚びるペットであろうとしているのだろう。
 擦り付けた頭を少しづつずらし、私の股間へと鼻先を近付けようとする。私はしばらく吉村の好きにさせておいた。
「梶谷さん、さっきの、電話……特に、用事はなかったんです」
 懐こいペットを褒めるように愛でるように吉村の髪を掌で撫でつけると、彼は目を細め、頬を上気させて喜んだ。人の満たされた表情というのはこういう物なのだろう、私は今までこんな表情をしたことがあるだろうか。それとも今、こうして彼を満たしていることで私も満たされているのだろうか。
「ただ、少し寂しくなって……梶谷さんの声が聞きたいと、思っただけなんです」
 専務と一緒にいたことで罪悪感でも湧いたのだろうか、それとも専務と居たことで私を恋しく思ったのかも知れない。私はその時間をこの場所で、多田と過ごした。――罪悪感を覚えるべきなのは私の方なのだろう。
「梶谷さん、……」
 吉村は震える唇でそう囁くように言い、スーツ越しに私の股間に口付けた。鼻先を押し付けるようにして噎せる匂いを嗅ごうとする。掌は私の内腿を撫で、縋り付く様に、股間の昂りをもっと屹立させるように惑わそうとしていた。
 私は欲情した性棒に与えられる鈍い刺激を更に求めるように腰を突き出し、吉村の口や鼻を窒息させるほど押し付けた。吉村も私の尻に手を回しそれを甘受する。飢えた犬が餌を貪るようにがっついて、顔の向きを時折変えては、やんわりと歯を立てて私の物を悦ばせる。
「――そうやって、専務の物も起ててやってるのか」
 吉村の頭を見下ろしながら低く告げると、吉村の満足そうな表情は再び曇る。
 まだそうしてはいない、という彼の告白を信じていないわけではない。しかし何れそうすることは判っているし、かと言ってそれを責めるつもりもない。これはただの遊びだ。
「して、ません……」
 くぐもった声で吉村は答えた。その口を股間の盛り上がりで塞ぐ。すっかり私のスーツは吉村の涎で濡れてしまっていた。
「それをどうやって証明するんだ?」
 吉村の口を塞いだまま私が尋ねると、ようやく私の意を計ったように吉村が視線を上げた。