LEWD(79)

「あの、梶谷さん、……?」
 私が何処に立ち、どのように吉村を見ているのか判らなくて不安なのだろう、吉村は首を捻って背後をあてもなく見ようとしながら両肩を床に落とした。
「大丈夫だよ、もっとしっかり見せて御覧」
 私は敢えて彼の躰に触れなかった。吉村は不安そうに、一度唇をきつく結ぶと両手を自身の尻に回して双丘を左右に開いて見せた。中央にヒクついている菊座を、私に見せ付けるように。
「なるほどね」
 私は吉村の尻の谷間にようやく指を這わせ、その秘孔の周囲をなぞる。
「ひ、……ッくゥ……ン、ぁ……梶谷さ……ぁ、ア、……」
 吉村が切ない声を上げて、天井に向かって突き上げた腰を揺らした。肉が絞られたように皺になっているその箇所が、赤く色付いた襞を捲らせようと緩み、また引き締まる。私の指が近付くとその動きは淫らに激しくなり、吉村は直接触れようとしないその刺激を欲しがるように短く喘ぎながら更に腰を高く突き上げた。
「オナニーする時は此処を自分で弄るのか?」
 大きく開いて床に付けられた膝の間には粘り気を帯びたカウパーが滴り、自身の尻たぶを掴んでいる吉村の指は力が入りすぎて白く血の気を失っていた。
「はい、……ッ・梶谷さんのことを、考えながら――指を、三本くらい……入れて、中をかき回して、それで、ァ、僕……あァ、ン、ぅ」
 収縮する菊の花を指先で掠めるように撫でる。一旦甘い声を跳ね上げた吉村は次の瞬間には脱力したように腰を逸らせて上体を床にぐったりと落とした。その様子を眺めてから、私は吉村と私を繋ぐ指を放して自身の股間の物を握る。
「梶谷さん、僕の――……尻、……僕の尻マン……いじって下さい、ッ・お願いです……」
 私が再び彼の世界からいなくなったことで吉村は不安を募らせたように声を張り上げる。懇願する声は泣き叫ぶように濡れて、何度も繰り返した。
「静かにしなさい」
 私は静かに彼を制すると、己の掌で支えた肉棒を吉村の鼻先に突き付けた。唇を引き攣らせながら哀願を飲み込んだ吉村がはっとしたように息を飲む。突き付けられた体温が何であるかは匂いですぐに判ったのだろう、私が命じるのを待たずに貪りついてきた。
「ン……んむ・ゥ……、ん――クぅ、……ン……」
 鼻を鳴らしながら吉村は上体を起こし、私の股間に顔を擦り付けた。咥内や唇、舌や匂い、味だけでなく鼻先や頬などの皮膚全てを私の叢に埋めようとしているようだ。
 いきなり根本まで咥え込んだかと思うと、唾液をたっぷりと滴らせた舌を裏筋に這わせて左右に何度もねぶる。唇を吸いつかせた根元からはちゅぱちゅぱと赤ん坊がミルクを与えられている時のような音を立てさせながら、私の滲ませるエキスの一滴たりとも逃すまいとしているようだった。
「、ふ……吉村、いつもしているように……自分で、弄っても良いんだよ」
 彼の頭に乗せたジャケットごと顔を抑えると、聞こえているのかどうかは判らないまま告げた。吉村が礼を言うように唇を一度離し、顎を引く。前立腺に滑らせていた舌を伸ばし、玉の付け根に窄めて重ねた。そうしながら吉村は下肢に伸ばした手の一方をいきり立った自身に遣り、しとどに濡れた亀頭を擦って湿らせると後孔に運んだ。
「は、ン……んぅ、ッ……ン――む・ゥ、……ん……」
 先走りで濡れた指を菊孔に塗り付けるともう右手の中指をくりくりと押し沈めていく。股間でくぐもった声が時折短く裏返り、背筋に痺れが流れたように震えた。
「えらい従順に躾けましたねぇ」
 湿った音ばかりが響く、薄暗い部屋の扉が開いて彼の得意な関西訛りが聞こえた。
「――それとも元々そういうマゾ体質なんかな?」
 振り返ると、先程廊下の向こう側に駆けて行った筈の多田が相変わらずの飄々としたていで立っていた。
 私の物を咥えた吉村の躰の熱がすっと引く。舌の動きも、熱っぽい鼻先の動きも一斉に静止してしまう。しかしそれ以上顔を引いてしまうことも出来ず、尻に運んだ自身の手も強張ったように止まっていた。
「私は特別仕込んだつもりはないけどね。
 ――早くそこを、閉めてくれないか?」
 私が答えると、多田は小さく首を竦めて笑いながら扉を閉め、内側から鍵を落とした。