LEWD(80)

 しんと、部屋の中が静まり返った気がした。衣服を落とした吉村の裸体からピンと張り詰めた緊張が漂い、それが静けさに感じられるのかも知れない。
 その異常なまでの静けさの中で多田が低い声を漏らし、笑った。ゆっくりと、しかし靴音をしっかりと響かせて近付いてくる。
「どうぞ、続けて」
 私に向けられた言葉ではない。もっとも、視界を塞がれた吉村には彼に向けられた多田の視線を知ることもないだろう。多田がいつも彼に見せているのであろう人懐こい笑みを浮かべていることも、知る由がない。突然聞こえた私以外の人間の声が多田のものだということすら、判っているかどうか。
「吉村、続けなさい」
 私のものは依然、吉村の咥内で脈打ったままだ。しかし吉村の手の中に握られている肉棒はすっかり縮こまってしまっている。無理もない。ここは依然彼が通っていた発展場などではないのだ。
「続けなさい」
 私の口調を多田が真似て、また笑う。私は彼の悪趣味な冗談に笑って返す代わりに吉村の頭を抑えた手に力を篭めた。ぱっくりと張った傘で広げられた咽喉の奥まで緊張している。その締まり具合を確かめるように腰を揺らす。
「ッ! ――ン、む……ゥ、ん、ンむ……ッ・う……」
 途端に我に返ったような吉村が、首を左右に激しく振り私のものを咥え込むことを拒絶し始めた。高く掲げた腰を床に伏せ、両腕を突っ張って顔を引こうとする。すっかり引いてしまった汗が、焦りのために再びどっと吹き出してきているようで厭う姿すら艶かしく映る。
「嫌がってますよ、嫌われてんちゃいますか」
 散歩を嫌がる犬のような吉村の肢体を指差し、多田が笑った。私は黙って肩を竦める。しかし吉村が引こうとする顔を両掌で挟み込むように掴み、固定させると強引にペニスを突き入れた侭にさせた。幾ら追い詰められていても、吉村が私のものを傷付けることはしないという確信がある。
「ん――……ッ! ふン、……んン・む……ゥ、……んぅ……っ」
 必死に顔を反らそうとする吉村の動きでようやく、途中で止められた刺激を得ながら私は腰を前後に使った。カリ首が咽喉の奥から遠ざかると吉村はそのままフェラチオから逃れようと唇を窄めたが、亀頭を歯列の内側で止め、閉ざされた舌の上に再びペニスを突き込む。厭う吉村の鼻腔からは呻き声とも嗚咽とも、えづきともつかない声が漏れて私の加虐意識を煽った。
 吉村の躰を挟んで私の向かい側に歩み寄った多田は、唾液で濡れそぼった私の股間の叢を覗き込みながら膨らんだ股間を寛がせ始めた。
「ん、ッ……く・ぅ……――ふ、ン……、ん、ン、――」
 何度も喉奥を突く度に、吉村の意識も朦朧としてきたと見えて抵抗する力が弱まってきた。唾液の量も元通りに増し、腰を彼の頬にぶつけると濡れた音が響いた。
「梶谷さんのザー汁には麻薬でも入ってるんですかね」
 吉村が恍惚としていく様を見下ろした多田が感心したように言った。スーツから肉棒だけを掬い出し、根本から先端まで撫でるように扱いていた。
「媚薬と言ってくれないかな」
 私は多田に返しながら、吉村の頭に掛けた手を一方、滑らせて背筋をなぞった。頭上の会話を聞きながら、それでも吉村は性感を擽られて震えた。
「さしずめ吉村は媚薬中毒者っちゅうことですか」
 多田の言葉に吉村が過敏に反応する前に、私はなぞり下ろした掌で彼のもの欲しそうな尻たぶを平手打ちした。
「ッ・く、……ぅン!」
 きゅうと咽喉の奥が締め付けられる。それでも歯を下ろそうとはしないで吉村は甲高く鳴いた。