LEWD(85)

 多田の引き締まった肉壷から溢れ出る精液を、勿体ないとでもいうように吉村は、結合部に舌を伸ばして夢中で啜った。
 襞の隅々までを捲り、熱い体液で浸した私の肉棒は吉村から施される後始末に余韻の震えを起こしながら、静かに萎えていった。
「、…………」
 希望を叶えてやった感想はどうだ、と多田に呼びかけようかと思ったが、背後の吉村が気になって飲み込む。今や目隠しは取れ、彼にもことが判っているだろうがそれでも、口に出さなければなかったことに出来ることもある。例えば私が妻の不貞を知らないことになっているように。
 例え私は妻の躰に指一本触れていないというのに妻が子を宿していても、妻の口から自分が他の男と寝たのだと聞かされない以上は私は彼女の不倫の事実は知らない侭になっているのだ。
 尻穴から肉棒を引き抜き、濡れた性器を吉村の唇に拭わせてながら床に崩れ落ちた多田の姿を見下ろすと彼は半ば失神しているようにぴくりとも動かなかった。もしかしたらそれも、彼なりの吉村への気遣いなのかも知れなかった。

 ハンカチでいくら拭ったところで落ちない香りを漂わせたまま私はスーツを着け、給湯室で人目を忍びながらそのハンカチを流した。濡らした布を持って資料室に戻ると吉村の体を拭い、彼を仕事に戻したあと最後に多田の始末を始めると、彼は今ようやく意識を取り戻したように目蓋を開いた。
「……いや、実際予想以上でしたわ」
 私が拭ってやろうとした手から濡れたハンカチを取り上げ、自分で自分の躰を丁寧に拭いながら、多田はいつもの調子に戻ってあっけらかんとした表情を見せた。
「それは良かった、大口叩いておいて期待外れなんて言われたら暫く立ち直れない」
 私は多田の傍を離れ、部屋の換気扇を回しに書架の間を捜し歩いた。
 吉村は下肢に力が入らないようで、覚束ない足取りでオフィスに戻っていったが『もう一人の男』については何も口を開こうとしなかったし、これからも何も言わないだろう。
「さすが御主人様って感じやな」
 汗ばんだ躰を拭き上げると、多田はのろのろと腰を上げて下着を着けた。体内に種付けした私のものは処理していないだろう、腹に力が篭っている。
「……御主人様?」
 私は部屋の隅でようやく通風孔全開にするボタンを見つけると押し開いた。書架の合間から多田を振り返る。吉村は確かに犬のように私に懐いていると思うが、彼にとって私は「主人」だろうか。
「御主人様って、梶谷さん――アンタのことやろ?」
 何のことだ、そう尋ね返そうと唇を開いたが上手く声が出てこない。
 多田は仕立ての良いスーツをだらしなく着けなおし、首を左右に曲げながら体のストレッチを行うと、硬直した私の姿を見た。
「俺が、吉村の所為で梶谷さんに興味を持ったと思います?
 ……そらまぁ、梶谷さんが御主人様やろうと断定できたきっかけは吉村のお陰やけど……」
 多田は、自身の躰を洗ったハンカチを床に落とすと、しゃがみこんで汚れた床の上をそれで拭きながら、私を仰いだ。
「――……まさか梶谷さん、ホンマに知らんのですか? lewdのこと」