夏合宿(4)

「岩崎先輩と、いつからやってるんですか?もう何度もした?今年此処に来てからも?」
 窄まった菊座を二本の指で乱暴に広げる。みしみしと先輩の肉が音を発てるようだった。しかし中では、襞がざわめき始める。
「ちが、違う、違う……ッ」
 泣き言のような声音は、俺の疑惑を否定したいというよりもただの歓喜のように聞こえる。
「先輩、強姦みたいにされるのが好きなんだ……」
 無為に繰り返される否定の声、俺は無理矢理拡げた尻穴にはちきれそうな自身を擦りつけた。
 こんな風に終わるなんて思わなかった。岩崎先輩から鷲見先輩を奪おうとは思えない。一度だけ、最初で最後のセックスか……。こうでもしなければ知ることもなかった関係だろうし、知らなければいつまでも先輩とこうなりたいと望んだだろう。
「ちが、う……ッ、瀧沢・ア、ぁあ……」
 俺の先走りを塗りつけた蕾は容易に亀頭の先を許した。そのまま雁までは自然に滑り込む。そこまで飲み込んでしまうと、先輩の尻はその奥まで刺激を欲しがって大きくうねった。
「別に振れ回ったりしませんよ。…岩崎先輩と鷲見先輩がホモだなんて」
 先輩は息を飲むたびに泣いているような上擦った声を洩らした。可愛い声だ。首を竦めて、痛みと快楽の狭間に揺れている。先輩を可愛いと思えば思うほど、愛しいと思えば思うほど、嫉妬の熱は否応無しに燃え滾った。
 どうして俺じゃなかったんだろう、先輩がどうせ男を許す躰なら、俺がその相手になりたかったのに。俺が岩崎先輩みたいに強ければ、岩崎先輩より先に鷲見先輩に逢っていれば、立場は逆転したんだろうか。そんな問題じゃないと判っていても、そう思わずにいられなかった。
「や、……たき、沢……ぁ・ふぅ、ンっ」
 先輩の腰が左右に揺らめく。欲しがっている声だ。
「岩崎先輩と恋人なの?それともただのヤリ友?認めたら、突いてやるよ」
 どっちだって良い。本当は聞きたくない。自虐的な問い掛けだ。言って直ぐに撤回しようと思ったけど、その言葉は出て来ない。先端だけ先輩の中に埋めた肉棒が震えた。
「違う、……ちが……よ・っ」
「じゃあ別の相手だ。誰?」
 犬みたいに腰を振る先輩を抑えて、亀頭を引き抜く素振りを見せる。弾かれたように先輩が嫌、と叫んだ。随分仕込まれているようだ。
「ちがぅ、誰でも、ない……っ」
 往生際の悪い人だ。弱弱しい鼻声の途中で、俺は腰を進めた。背中を仰け反らせて甲高い悲鳴を上げようとする先輩の顔をベンチに抑えつける。誰かに聞かれたら堪らない。
 きつい襞を切り裂くように掻き分けて捻じ込んだチンポを、一度締め上げた柔肉が次第に蕩けてゆるゆると絡み付いてくる。一度半分ほど引いて、再び突き入れるとやっぱり一度締め上げた後ゆっくり解けて行く。
「へぇ、先輩ン中気持ち良いよ……相当慣れてんだ」
 ベンチに顔を押し付けられたまま啜り泣きのような声を洩らしていても、先輩はまだ首を振る。それほどまでにばらしたくない相手ということは、やっぱり相当大事な人なのかも知れない。
「チンポ突っ込まれんのが好きなの?……ねぇ、先輩」
 吸いつくような襞を打ちつけた腰で突き上げる。痙攣を起こすように先輩の背筋が震えた。くぐもって聞こえる声は完全に歓喜の戦慄きだ。
 蕩ける肉壁、入口は俺が動く度にぎゅっぎゅっと躊躇うように締め付けて、欲望に滾った肉棒の脈を刺激した。鷲掴みにした腰を、乱暴に揺さぶる。先輩の上体はベンチに伏せられたままただ悶えるだけで、悩ましい声を隠そうとしない。
「すげぇやらしい、先輩ン中……っ絡み付いてくるよ、吸い取られそう」
 我慢汁を塗り付けられた体内はヌチョヌチョと音を発てて俺の眼下で芳しい匂いを立ち上らせながら、突き入れられる度に快楽に暴れ、引き抜くたびに熟れた肉を覗かせてもっともっとと誘った。
「……っア、あん・ひぁ……んンっ!」
 ベンチの脇に立ち上がった俺にされるがまま下肢を浮かせた先輩の脇腹が小刻みに震える。肌に浮かんだ汗は自主トレの時のものとまた新しく吹き出してきたものと混ざり合って俺の手を滑らせる。尻マンの奥を抉るように突くと先輩は女のように鳴いた。
「先輩、今日他の男に誘われたら……っどうすんの、こんなに尻穴拡げて、……ばれちゃうじゃん」
 囁きながら腰を大きく引く。亀頭だけを残して先輩の中を空けると、身も世もない声で先輩は抜いちゃ嫌だ、と喘いだ。
「・きざ……わ、ッあ、ちが・うの……っ、誰とも、してない……」
 もうそれは聞き飽きた。そんなに庇いたきゃ、もう良い。他の誰かへの愛情の深さなんて知りたくもない。
 きゅうと窄まってチンポを欲しがる先輩の尻を突いた。肉がぶつかり合って濡れた音を発てて、その音に先輩の嬌声が混じる。
「ィク、もう……ッだめ、やだぁ……ッぁあ、出ちゃ……・ぅん、あ、あぅンんっ!」
 仰け反らせた爪先をばたつかせながら先輩が訴えた。肉棒への締め付けがひどくなる。先輩の腹に銃口を突き付けたまま腰を乱暴にグラインドさせた。蕾に滲み出た汁が白く濁って泡立つ。ベンチの上も俺の足元も、どちらのものともつかない体液でびしょびしょに濡れていた。
「スケベ過ぎますよ、突っ込まれただけでイっちゃうんですか?、最悪っ」
 ……好きだったのに。
 俺が呟くように告げた途端、先輩は全身を固く強張らせてベンチの足に大量のザーメンを吐き出した。
「ン、!……っはァ・瀧……ざわ……ア、ぅん、んふ……ク・ぅ……」
 自分だけイきやがって。俺は濡れそぼった先輩のものを振りまわすようにしながら激しく腰を使わせて、何度も尻を突いた。
 くそ、堪んねぇ。やらしい声も、よがってる顔も、締め付けの良い身体も立ち上る体臭も、全部
 全部、汚せば汚すほど好きになっていく。
 チンコ突き立てられて狂ったように悶えてるのは先輩なのに、本当に狂いそうなのは俺の方だった。好きで好きで狂いそうだし、こんなに好きなのに俺のものにならない先輩への嫉妬心で狂いそうだ。
「ア、ぁあ……、イク、イクよ……先輩、腹ン中にたっぷり出してやるよ・っク、う……!」
 歯を食いしばった隙間から呻き声を上げて俺は先輩と深く深く繋がると、先輩の尻たぶに爪を立てながらどっとザーメンを浴びせ掛けた。断続的に何度も大量に吹き出る。それを襞の中に打ち付けられる度、先輩は上擦った声を洩らして嬉しそうに震えて享受する。
 こんなに男が好きで堪らない性奴みたいな汚い男なのに、まだ、この腕に抱きしめたくなる。こんなに好きなんじゃなければ、これから何度でもただやるだけの関係を望めそうなのに。先輩にとって俺は、運命の相手じゃない。それが、男だからという理由だけだったらまだ諦めもついたのに。
「……、瀧沢?」
 抱え上げた先輩の腰を床に下ろすと、ずるりとペニスが抜き出る。まだ躰を小刻みに痙攣させながら甘い吐息を吐いていた先輩が俺を振り返った。
 濡れた部屋着を履き直して、先輩の熱を覚えている下半身を仕舞った。
「瀧沢」
 無言で立ち去ろうとする俺を、先輩が縋り付くような手で引き止めた。
「瀧沢、違うんだ、本当に、あの……俺の話も、聞けよ」
 赤みの引かない火照った体、涙さえ浮かんだ先輩の眸が俺を見上げている。あんなに触れたいと思った先輩の体が俺の手を掴んで、決して離すまいとして。
「何で信じてくれないのか知らないけど、」
 先輩の手が震えている。力いっぱい握っているつもりなんだろう。それでも乱暴に犯された後で疲労も限界らしく、振り解こうと思えば振り解けた。
 先輩が眉尻を下げて僅かに俯く。
「……いや、本当は推測はつくけど、それは、違うんだ。絶対に、誰とも、したことなんかない」
 震える手に力が篭った。
「お願いだから……話を聞いて、欲しい」