登校日(3)

 三芳の淡々とした口調はこれが特別なことではないかのように思えた。清臣も、だからこそ戸惑っているのだろう。
「センセー、セックスって脱がせ合うもんなんじゃないっすか」
 一番後ろの席の谷岡が笑いながら言って、教室内を沸かせた。この中で笑っていないのは、清臣と達哉、三芳の三人だけだった。
「確かにそうだな。……じゃあ遠藤、廣瀬の服を脱がせなさい」
 三芳が一歩退き、清臣と達哉の間を空けた。三芳の思いがけない言葉に、それぞれ笑っていたクラスメイトの半数が戸惑い始める。三芳が本気だなんて、誰も思っていなかった。
「ちょっと、……先生冗談でしょ」
 達哉は教壇に背中を預け、成り行きを見守る体勢の三芳を振り向いて笑った。清臣とそんなことをしようなんて思ったことはない。清臣は大事な友達で、家族のようなものだ。いっしょに風呂に入ること自体、中学に上がった頃に止めてしまったけど、それは体毛が生えてきた清臣が恥ずかしくなったからだろうと思っていた。
「男同士で何を恥ずかしがることがあるんだ」
 三芳が袋に入ったままのコンドームを手の中で転がしながら、呆れたように言った。男同士だからこそ、こんなことおかしい。
 達哉は俯いてしまった清臣の顔を見遣った。耳まで赤く染まっている。クラスメイトの前でこんな冗談の槍玉にあげられたら、そりゃあ恥ずかしいに決まっている。達哉は三芳に怒りさえ覚えた。
「……何だ、遠藤は出来ないのか。じゃあ俺がしよう」
 拳を握った達哉が動かないのを見ると、三芳が再び清臣に歩み寄った。何の躊躇もなく腕を伸ばし、無理矢理清臣のワイシャツのボタンに手を掛けようとする。嫌がった清臣が身を捩った。
「先生!」
 達哉は泣き出しそうになった清臣の顔を見て、慌ててその腕を止めた。
「じゃあ遠藤がやりなさい」
 呆気なく達哉の腕に引かれた三芳は、溜息すら吐きそうな声音で言うと再び教壇に戻る。暫く、達哉は清臣と向き合った。
「……清臣、ごめん。……大丈夫?」
 頭半分下にある清臣の顔を覗き込む。深く俯いた清臣は、少しの間を置いた後、小さく頷いた。
 三芳の顔を振り向こうとして、達哉は体が凍ったように動かなくなってしまった。ゆっくりと腕を上げ、清臣のワイシャツに手を掛ける。別に特別な意図がなくても、嫌なら清臣を連れて帰ってしまえば良いことだった。しかし三芳を振り向くことが出来ないように、この場を逃げ出すことも出来なかった。体が自分のものではなくなったようにいうことを聞かない。
 ワイシャツのボタンをゆっくりと外していく。清臣は顔を伏せたまま、目をぎゅっと瞑っていた。
「ここがさっき言った通り女性で言うところの胸だ」
 清臣のワイシャツを開いた達哉の傍らから、三芳が口を挟む。達哉は三芳の言葉に、思わずワイシャツの中に隠されていた清臣の乳首に視線を落とした。
「続けなさい」
 ワイシャツのボタンを外し終えた達哉に、三芳が静かな口調で続ける。教室内はいつの間にか、静まり返っていた。
「続けなさいって……」
 達哉が三芳をようやく振り返る。すると三芳の手が、清臣の胸に触れた。清臣がビクッと身を震わせる。
「乳首はどれだ? みんなに示しなさい」
 問いを残し、三芳はすぐに手を引く。達哉は、清臣の顔を窺いながら、ゆっくりとその華奢な肩からワイシャツを滑らせた。夏の気温だけじゃない、妙な熱気が教室に篭り、また達哉の中で急激に体温が上がったように感じた。
「こ、……っ、ここ……です」
 恐る恐る、清臣の乳首を指した。三芳のように触れることはしない。触れなくても、清臣の体が小刻みに震えているように感じた。達哉が指先で示した乳首もきゅうっと窄まって尖っている。
「摘んでみなさい」
 三芳の指示が続いた。達哉はもはや反論することも忘れて、その言葉通り人差し指と親指の腹で清臣の乳首を摘んだ。尖っていた分、いくらか摘みやすかった。
「……っふぅ……っ!」
 達哉が力を篭めて乳首を摘むと、清臣の体がビクビクっと痙攣するように震えた。乳首を摘まれて、痛かったのかも知れない、しかし下を向いた唇からは、吐息のような声が漏れた。
「これが乳首だ。これは女性の性感帯の内の一つだが、性感帯というものは敏感な場所だということだ。優しく扱わなければ、痛がって女性は嫌がるだろう」
 三芳が声を張り、生徒に説明をする。ノートを取れと言い出すのも時間の問題だと思うような口振りだった。
「優しく扱うには、どうすべきか、――坂本、答えろ」
 黙りこんでしまった坂本は、三芳に指されると弾かれたように顔を上げた。目を瞬かせて、暫し考え込む。背後の加藤が無理矢理顔ににやけた表情を取り戻すと、坂本の背中を突付いた。
「舐めんだよ、ちゅうちゅう吸ってりゃ、女は悦ぶんだ」
 とは言え、加藤も経験はないのだろう。しかしAVの所有量で加藤に勝てるものはクラスにいなかった。
「だ、そうだ。遠藤、舐めてみろ」
 三芳が、腕を組んで命じた。三芳の声が飛ぶたびに清臣が膝を震わせるのを感じる。しかし達哉は、三芳の言う通りに黙って清臣の胸に頭を近づけた。
「ぁ……っ・ン……」
 舌先を伸ばし、指先で摘んだ清臣の乳首の先端を舐める。かいたばかりの汗の匂いに混じって、清臣の乳首は塩っぱかった。
 硬く尖った乳首から指を離すと、達哉は清臣の腕を掴んで舌先だけで目の前の乳首を弾くようにして舐めた。舌で掬い上げるようにし、直ぐに横からまた弾く。その度に清臣は小さな声を漏らして背を逸らした。達哉の掴んだ腕を上げ、胸に埋まる達哉の頭を抱くように手を掛ける。控えめな清臣の反応に、達哉は加藤の言う通り乳首を唇に含んで、ちゅうっと吸い上げてみた。
「ふぁ・っ……ぁあ、ア」
 ぞくぞくっと、何かが這い上がってきたかのように下肢から頭の先まで震わせて清臣が喘いだ。クラスから感嘆の様などよめきが起こる。
「見えない者は前に来い」
 三芳が口を挟んだ。達哉にはもはやその声も聞こえず、唇に含んだ清臣の乳首を咥内で転がし、またちゅっぱ、ちゅっぱと音を鳴らして熱心に吸った。もう一方の乳首には指先を宛がい、優しく転がす。清臣が過敏に身を震わせるたびに、意図せずして達哉の股間が硬くなるのを感じた。
「胸をこうしてい愛撫した後、お前ならどうする。――宮川」
 コンドームをつけずにセックスしたと豪語した宮川は、自分の机を前に迫り出しながら三芳に指名されて顔を上げた。ええっと、と自分の行いを思い出すように天井を見上げる。
「全身嘗め回しながら、……あー、下脱がせて、パンツの中に手突っ込みます」
 冗談を言って笑う暇もないのだろう、真面目に答えて、指先を動かす。女性器を弄るように、中指を揺らめかせた。しかしその手つきを揶揄するものも、もういない。達哉は三芳の指示を待たずに乳首から唇を離し、顔をゆっくりと下降させた。清臣の制服のベルトを外す。細い腰に引っ掛けるようにして履いたパンツは、ベルトを外すとジッパーを下ろした途端に床に滑り落ちてしまった。
「うわ、……おい、ちょっと」
 教室内に、控えめなどよめきが走る。制服を下ろされた清臣の下着の中に肉棒が勃起していることが、ありありと判るほどになっていた。ブリーフを張り詰めさせて、清臣が達哉に肌を舐め啜られている。生徒たちは一斉に最前列の机に詰め掛けてきた。
 達哉の手が、清臣の下着の中に滑り込む。昔はなかった陰毛が指先に感じられた。それだけで、達哉は自分が今触れている躰が自分の知っている清臣ではなくなったような気がして一瞬怯んだ。しかし、直ぐに心は劣情に覆い尽くされていく。
 今まで一番気を許せる友人だと思っていた清臣が、自分に刺激されて勃起している。しかも、クラスの生徒たちの目の前で。たくさんの視線に晒されながらブリーフ一枚になった清臣の鼻にかかった吐息を聞いていると、たまらなく欲情した。
 女性を弄るように愛撫するわけにはいかない下肢を、達哉は黙って扱き始めた。清臣の肉棒を握った達哉の手の動きはブリーフの外から全員が確認でき、中には自身の股間を押さえるものも現れ始めた。
「は……っ・ぁ、や、……っ達哉……ッ」
 膝をがくがくと震わせた清臣が、教壇に手をついて凭れる。ブリーフを押し下げる勢いで肉棒を握った達哉の腕をおさえながら、清臣は腰を突き出していた。
「さっきフェラチオがどうのと言っていた者がいたな」
 三芳が挙手を促すように手を上げながらクラスを見渡す。我に返った数人が、小さく頷いた。
「男性器を口に含んだり舐めることを、フェラチオという。では女性器を口にすることは何と言う?」
 先刻答えられなかった坂本が、紅潮させた顔を上げて三芳を仰ぐ。咥内の唾を飲み込んでから、口を開いた。
「クンニ!」
「そうだ。――廣瀬、教壇の上に座りなさい」
 三芳はそう言うと、喉を逸らして浅い息を往復させている清臣の背後に回って躰を支えるように手を回した。それだけで、清臣の全身が粟立ち、達哉の手の中に包まれた勃起を跳ねさせる。脇腹の辺りまで下がった達哉の唇に肌を吸われ、既に先走りがブリーフを濡らしていた。
 三芳の腕に支えられて、力を失くした清臣が教壇の上に浅く腰掛ける。半端に屈み込むようにして肌を貪っていた達哉もだいぶ楽な姿勢になった。
「下着を下ろして、男性器と女性器を見せてみろ」
 三芳が教壇の後ろから、達哉に命じる。臍の下まで舌を這わせた達哉は、その声に顔を上げた。いくら何でも、清臣に女性器がある筈がない。クラス中の視線が達哉と同様に三芳の顔を振り向いた。
 三芳が眼鏡の奥の目を再び細くさせる。背後から清臣の躰を支えた腕を滑らせ、ブリーフをずり下ろす。清臣が力なく、首を左右に振った。
「嫌……ッゃ、……あ……っ」
 艶めかしくしか聞こえない声で抵抗の素振りを見せながらも、三芳に足を開かされると清臣は膝を合わせることも出来なかった。達哉に昂ぶらされた勃起が隆々と天を向き、涎を滴らせている。生徒の目はそれを視姦するように注がれた。
「これが男性器なのは判るな」
 三芳が、達哉の手を取り払って清臣の勃起を指先で弾く。清臣は大きく仰け反って、また先端から汁をどぷりと溢れさせた。片足に引っ掛かったままのブリーフが揺れ、所在なく爪先が宙を掻く。
「廣瀬の女性器は、――ここだ」